電話が苦手なわけ


今月に入って4回


ケータイの発信履歴である。ほぼ半月でたったの4回。ちなみに着信履歴は17件あるけれど、出たのは5回。どうも電話が苦手である。というか恐い。というかはっきり言ってあまり出たくない。というか実際、ケータイは常にマナーモードにしてあってかかってきてもまず出ない。こんなことをカミングアウトしてしまうと、仕事に差し支えがでるかもしれないけれど。


誤解されると困るので断っておくが、もちろん「引きこもり症候群」ではないし「人見知り症」でもない。若い頃には初対面の人といきなり話すのがいささか苦手ではあったが、50を目前にし今そんなナイーブさはとうに消え去っている。ましてやメインの仕事がインタビュアーである。そのほとんどの場合、初めて会う(偉い人、有名な人、賢い人、恐い人等々)人から、しっかりきっちり話を聞きだすことがミッションである。人と会って話すことを拒否していては、オマンマの食い上げである。


人と話をすること自体は、決して嫌いでも苦手でもない。というか初対面の方とお話しすることは、積極的に好きである。ただ電話がダメなのだ。特に着信である。なぜ、電話を受けることが不得手なのか。


極言するなら、とても不器用だからということになる。電話を受けるときに、誰それから、これこれの用件でかかってくることがあらかじめわかっているケースはまずない。ということは、かかってきた電話に対しては常に受け身を強いられ、相手に合わせて変幻自在の対応を取らなければならない。これができないのだ。


たとえばせっせと原稿を書いているときにかかってきた電話である。原稿を書く仕事は、私のような三流ライターでも(だからこそと言うべきかもしれないが)それなりに神経を集中させている。ごく稀には「ノッて」書いている時さえある。そんな時にかかってくる電話は最悪である。集中しているということは、ほとんど現実感がないということでもある(だから、後で読み直すと何を言いたいのか意味不明状態の文章になっていることも多々あるわけだが)。


ところが、かかってきた電話は極めてリアルな世界の話である。当然だ。相手の方は、私に対して何かしらとてもクリアに用事があるからこそ電話をかけていらっしゃるのだから。そこで電話に出るとどうなるか。


原稿没頭世界から、いきなり現実世界への頭の転換を強いられることになる。これがなかなか簡単にはできない。しかもただ現実世界に戻ってくれば良いというわけではない。相手の方が私に電話をかけて来られた背景を瞬時に察し、そのお声のニュアンスからときにはご機嫌の具合を推し量りもし、万が一お怒りの場合などはそれなりのフォローも考えなければならない。


とまあ、これは極端な例にせよ、少なくとも相手の思考をクイックに追うぐらいのことは最低限求められるだろう。これが結構なストレスとなるのである。そんなの適当に聞き流せば良いじゃんと思う人もいるかもしれないが、それができれば苦労はないのである。しかも携帯電話になってからは、電話機を首と肩の間に挟んでメモを取ることができなくなった。こちとら筆圧が高いので、片手で紙を抑えていないとメモを書いている紙が動いてしまって、きちんとした字にならない。これもイヤである。


さらにである。原稿仕事集中状態からいきなり『電話=相手思考フィッティング状態』へとワープしてしまうと、電話が終わってさて続きを書かなくちゃとなってもそうは簡単に原稿書きモードに復帰できるものじゃない。先ほどまでのテンションに戻るためには、それなりの時間が必要になるのだ。滅多にないけれども「ちくしょう、さっき何か素晴らしいアイデアを思いついたのに。忘れちまったぜ」てなこともある。だから、電話には極力出ないのです。ごめんなさい。


では、自分から電話を掛ける場合はどうなのか。


今度は相手に対して不意打ちを食らわせることになる。それが楽しいんでしょ、という考え方もあるのかもしれないし、そんなたいそうに考えることないじゃんという声も聞こえてきそうである。が、これは歳を取ったからだと思うのだが、そういう風にして相手の時間を無駄にすることにとても罪悪感を覚える。


もちろん相手だって、私から電話があることを予想しているわけではない。だから、いきなり電話をかけて話始めても、とりあえずは「何が何だか」状態である。当然の如く、いきなりは話は噛み合ない。だから電話で話をするときにはたいていの場合、最初の数分はアイスブレイク的会話が必要である。それってもったいないじゃないかと思いませんか。


だって、そういう用事の80%ぐらいはたぶんメールで代替できるはずだから。メールなら自分の都合のいいときに、きちんと考えて文章を書ける。自分から書く場合も然りである。そしてメールで済まないような用事は、どっちみちきちんと逢って面と向かって話をしないとうまくまとまらないものだ。


というわけで、これからも電話にはあまり出ないと思います。電話をかけていただいた方「いつも留守電にしやがってぇ〜」と怒らずに、どうかお許しくださいませ。メッセージはちゃんと聞いてますから。



昨日のI/O

In:
『街場の中国論/内田樹
Out:
某ソフト開発物語
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昨日の稽古:

・ジョギング、懸垂