いびき軽減まくらの売り方


その数、日本に約2000万人


いびきすと(いびきをかいて眠る人のことです)人口である(フランスベッド)。私もその中の一人であるらしい。あえて「らしい」などとあいまい表現をとるのは、自分で自分のいびきをはっきりと確認したことがないからだ。とはいえ、おそらくは自分のいびきであろう轟音に驚いて居眠りから目覚めたことは何度かある。だから、かなり確度の高い「らしい」である。


ところでいびき問題は、いびきをかいている本人には実は問題でもなんでない。睡眠時無呼吸症候群につながる危険性があるらしいが、そんなこと言われたって、こっちはぐっすり寝ているのである。知らんのである。


いびきが問題化するのは、誰かがそばで眠る場合に限られる。しかも、その誰かが音に対して比較的デリケートな方であるときに、いびき問題は深刻化する。しかしである。「いびカー(いびきを盛大にかく人をこう呼んでみてはいかがか)」に罪はない。本人が意識的に悪いことをしているわけではない。ただ本人に意図がなくとも実害はある。被害を受けるのは、たいてい奥方ということになるのだろう。


そこで「いびカー」を旦那に持つ女性のために開発されたのが、この「いびき軽減まくら」である(ほんまかな)。新製品、新サービスは顧客の「不」解消から生まれるを持論としている私としては、そう考える。だから、この枕の販売ターゲットは、おそらく30代以降の女性となるだろう。


ところが、ここでバイヤーとユーザーの乖離が生まれることになる。この枕の実際のユーザーはお父ちゃんである。しかし「いびカー」は自分が「いびカー」である自覚を基本的に持たない。従って「いびカー」自らが、この枕を積極的に買うことは論理的にはあり得ない。もちろん「あんたのいびき、ほんまにうるさいな」ぐらいのことは時々言われるだろうが、「いびカー」がそんな苦情を気にすることはあまりないはずだ。


ではバイヤーとなる奥様達はどうなのか。個人差がある話だが、長年連れ添っているうちにいつしかいびきに馴れてしまった、なんて方もいらっしゃるのではないだろうか。馴れが嵩じて「亭主のいびきがBGMにないとどうも寝つきが悪いの」、などとおっしゃる方もおられるかもしれない。まあ、少数派だと思いますけれど。


あるいは、今どきの女性たちがもっとクールにリアリストであることを踏まえれば、そもそも「いびカー」と同じ部屋で眠ること自体がまずないのかもしれない。何しろ睡眠不足はお肌の大敵である。おっさんのいびきのおかげで安眠妨害されて、お肌ボロボロなんて女性サイドからすればあり得ない話である。


となると、この「いびき軽減枕」は、一体誰にどうやって売ればいいのか。


とりあえずプレスリリースが新聞に取り上げられて、記事にはなっている。ところがこの商品の広告はまだ目にしたことがない。メーカーサイドとしては「いびきを抑える機能」は画期的だと考えて開発してみたものの、出来上がってみてさて、どうやって売り出せばいいのか案外、戸惑っているんじゃないだろうか。


何しろユーザー自身は、いびき抑制ニーズを持っていないのである。ニーズは同じ部屋で眠る方にある。しかし住宅事情により同室せざるを得ないケースを除いては、いびき抑制ニーズは別の場所で眠ることにより解消可能。となると、ここはやはり「いびきがいかに健康に悪影響を及ぼすか」にポイントを絞り込んで訴求するしかない。が、いびきの健康阻害って医学的に実証されているのだろうか。


今後、フランスベッドさんがどんなマーケティングを展開してくるのか楽しみだけれど、自分が企画を考えるなら「睡眠と健康」みたいなテーマで、タイアップ広告を雑誌(『文芸春秋』なんかがいいんだろうな)で展開するのが一番なんだろう。


しかし、この「いびき軽減まくら」、なかなか不思議な商品だと思う。いびきを感知すると枕に内蔵されたバイブレーターが振動していびきを抑えるらしいが、振動がいびきに本当に効くのだろうか。それでもいびきが止まらない場合は、振動が三段階に渡って強くなるそうだ。でも、それって強い振動を与えて寝ている人を起こしてしまうんじゃないのだろうか。さらにマイク出力端子がついていて、望めば自分のいびきを録音して聞くこともできる。って、そんな自分のいびきを聞きたい人というのが、どんな人なのか。いびきすとである自分には想像もつかない。


個人的にはずっと前のことになるけれども、気持ちよく熟睡しているときにいきなり鼻をギュ〜っとつままれて目を覚ましたことがある。「ずう〜っとずっと我慢しててんけど、もうどうにもたまらんから」と家人に起こされたのだ。いびきを抑えるには、少々手荒ではあるけれども、こういう方法もあるようだ。当然、我が家では私はいつも一人で寝かされている(しくしく)。



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