口コミより人コミ


県内8校から合計18人


石川県にある産業材メーカー・中村留精密工業が、今後3年間で自社に体験入学してもらう工業高校の先生の数である。その目的はと言えばリクルーティング、といっても高校の先生を自社にスカウトしようというわけではない。採用したいのは、もちろん工業高校生の方だ。


工業高校生の数は平成17年度で約30万人。1990年代後半からは大学進学をめざす学生も増えている。工業高校生を採りたい企業にとって、状況は厳しい。もちろん就職する学生もいるが、学生からすればどうせ就職するなら、名前の通った企業をと考えるのはごく当たり前のこと。勢い中小企業や大企業でも一般的な知名度の低いところが採用面で不利になるのは否めない。


産業材メーカーなどはいわゆる広告を打つわけでもなく、業界内では世界的に知る人ぞ知るといった企業でも、世間的にはその存在すら知られていないケースもあるだろう。恐らくはこの中村留精密工業もそうした企業の一つだと推察する。資本金は17億、海外でもアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアに拠点を持つ。工作機械では大手である。


とはいえ工業高校生からすれば「中村留精密工業? はぁ〜、どこ、それ?」てなところじゃないのだろうか。もちろん、これまでにもさまざまなリクルーティング方法を実践し、採用に力を入れてきていることは想像に難くない。実際、同社のホームページをみれば、リクルートのページはとても充実している。しかし、これでもたぶん工業高校生には届かないと踏んだのだろう。


そこで同社は学校の先生に狙いを付けた。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」作戦だ。先生を高校生たちに自社の魅力を伝えてもらう語り部とする作戦といってもいい。そのために先生に体験入社してもらう。それも3ヶ月の長期プログラムである。これだけの時間をかけて、自社の製品はもとより実際の組立て工程や複合加工機の操作まで体験してもらう。そりゃ、工業高校の先生ということは、その方面に興味をお持ちだろうから、かなりおもしろい体験になるだろう。


その体験を通じて先生が自分の体に溜め込んだ知を、学生に語ってもらう。このときの先生の言葉は、どんな広告コピーよりも強く、またどんなプロモーションビデオよりも深く、学生たちの心に刺さるのではないか。しかも学校の先生は、生徒たちがもっとも長い時間接する相手だ。問わず語りに伝わるものもある。


これからスタートする制度なので、まだ成果は出ていない。でも、きっと優秀な生徒を獲得できると思う。なぜなら先生が醸し出すそういう「知」に反応し、それを理解できる生徒ほど、このリクルーティング手法が効くはずだから。


マーケティングの世界ではキーパーソンをファンにする「インフリュエンサー・マーケティング」という手法がある。その業界のインフリュエンサー(業界に対して影響力を持つ、オピニオンリーダー)と親しくお付き合いをして、自社のこと、自社製品のことを知ってもらい、結果的に彼らを囲い込んでしまうやり方だ。


すると彼らから影響を受ける人たちにも、自然な流れの中で自社の魅力が伝わっていく。モノによってはマス・マーケティングよりも費用対効果が圧倒的に高くなることがある。


中村留精密工業の作戦は、このインフリュエンサー・マーケティングをリクルーティングに応用した事例である。高校の先生という目の付けどころがおもしろい。先生もきっと喜ぶし、学校側にとっても先生に新しい体験をしてもらう絶好の機会となる。先生が一人3ヶ月いない間の穴埋めが問題と言えば問題かもしれないが、そんなのは何とでもなるだろう。このリクルーティング手法、全国的に広がるんじゃないだろうか。というか、国がモノ作り企業のバックアップとしてやっていい話ではないかと思う。



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