国家の購買力


日本16%増、中国4.31倍


1990年を基準とした2006年度のブロイラー消費量である(日本経済新聞7月18日)。06年度の中国の鶏肉需要は約1000万トン、その需給バランスが崩れつつあり中国の加工業者は海外輸出だけではなく国内への出荷も十分にビジネスチャンスとなることを意識し始めている。


一方では日本産の高級牛肉が香港に輸出されている。高級牛肉が海外輸出されているだけではない。逆に米国産の安くて上質な牛肉を、以前と同じ価格で手に入れることはできなくなっている。確か今週の週刊ダイヤモンドの特集が『食卓危機』である。サブタイトルは「世界で買い負ける食料と水」とついている。なかなかショッキングなテーマである。


以前からずっと心配し続けていたことが、いよいよ現実のものとなってきた恐れがある。しかも、予想とはまったく違ったメカニズムの元に。


これまで何回か書いてきたエントリーでは、日本の財政危機→円暴落→円による購買力低下→輸入食品の相対的価格アップといったシナリオを予想してきた。が、確かに今は円安基調ではあるけれども、まだまだささやかな範囲に収まっている。円の購買力そのものはそれほど低下していないのだ。


にも関わらず日本が「買い負ける」理由は何か。


日本以上の購買力を持つ国(正確には人々と記した方がよいのかもしれない)が台頭してきたからだ。その代表が中国の富裕層である。もとより日本の富裕層と中国の富裕層では、その定義が違う。たしか中国の富裕層は日本円換算での資産700万円以上の人々のことだったはずだ。日本の富裕層も確定した定義はないが、不動産以外の金融資産を100万ドル以上持つ層だとすれば、これが03年末で131万というデータがある(→ http://www.landscape.co.jp/million.html)。基準値が違うので単純比較はできないが、中国の富裕層はそのボリュームが桁違いに多い。


一方、中国の富裕層は正確な統計はないものの最低で4000万人から多ければ人口の6%程度、つまり1億人程度が富裕層に達しているという話もある(→ http://r25.jp/index.php/m/WB/a/WB001120/id/200705241101)。この人たちに日本は、買い負けしつつあるようだ。最近、問題となっている農薬汚染野菜などに代表される中国産の製品に関しても、そうしたモノを買わされているのは日本と中国の庶民であり、中国でも富裕層は安全なものを手に入れているという話もあるようだ(週刊朝日2007.7.27号、26〜29ページ)。


仮に中国の富裕層が1億人だとすれば、それだけで日本の全人口の8割程度に達してしまう。彼らが安全で、おいしい肉や魚や野菜を求め始めたときに、日本が買うことができるのはどんな食材になるのだろうか。購買力平価で換算したときに、すでに日本のGDPは中国に抜かれているという見方もある。これから先の国づくりをどうしていくのかという中長期的な視点が今ほど必要な時はない。


考えるべきは、これからの日本国のビジネスモデルである。


日本は世界に対して(あるいはもっとターゲットを絞り込んだ方が良いのかもしれないけれど)、どんな競争優位な価値を、どのように創造し提供することで対価を得ていくのか。ここをきちんと考えておかないと、とんでもないことになる。対価を得ることができなければ(すなわち価値を提供することができなければ)、食料にしても水にしても燃料にしても海外から買い付けるだけの原資が続かない。


ポイントは教育しかない。


もちろん、これから何十年かの間に画期的な資源が日本で発見される可能性を否定はしないが(ぜひとも期待したいが)、いま日本が確かに持っている資源は「人」しかない。その人も肉体労働で勝負していたんじゃもはや勝てっこない。これまた絶対にとはいわないけれど、あらゆる面で快適な生活に慣れ親しんでしまった日本人は全般的に虚弱化しつつあり、肉体勝負となった場合には中国やインド始めいわゆる新興国の人たちに対してひとたまりもないことは明らかだ。


わずかに残された可能性は、技術力を含めた知恵の勝負しかない。そのためには知恵の勝負に挑める人材をできるだけ多く育成するしかない。それがこれからの教育の役目だと思う。学校はもちろん家庭もいうまでもなく、地域ぐるみ、国ぐるみで教育を強化すること。これが21世紀の日本国のビジネスモデルを成立させるための現時点でもっとも有望な戦略ではないのだろうか。そして、この戦略が正しいとするなら、教育にこそ今すぐに、最大限のリソースを投入するべきだ。


すでに中国は20年以上前から国を挙げての教育強化戦略を行なってきている。その結果が出ての富裕層1億人なのだ。インドだって中国に遅れはしたが、教育に力を入れていることは間違いない。だからアメリカの仕事がオフショアリングでどんどんインドに流れている。


美しい国』というのはお題目としてはとても耳さわりの良い言葉だと思う。しかし、それだけでこれからの競争が熾烈化する世界の中で日本国が生き残っていくだけのビジネスモデルをつくりあげることができるだろうか。今回の選挙では、そうした将来の日本の姿をも少しは考えた上で一票を投じるべきなのだと思う。




昨日のI/O

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北海道庁保健福祉某氏ミーティング
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某ソフト開発物語
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