ワンコインフィットネス


10分500円


遂にここまで来たか、という感じだ。ワンコインフィットネス「ファースト・ファースト」である。とはいえこれでもフィットネスクラブといえるのかどうか微妙なところともいえる。なぜならここでできる運動(?)はたったの一種類。踏み台のような振動盤に手すりが付いた運動器具「Vーバランス」に身をゆだねるのみだから(日経MJ新聞7月20日)。


このVーバランスなるマシンに身を任せていると全身が程よく揺さぶられ、脂肪を燃やしてくれるらしい。とりあえずマシンに乗っている(立っている?)だけで良いということになると、これはある意味究極のフィットネスといえるのかもしれない。あのビリー鬼軍曹とは正反対の世界である。しかし、それって果たして運動と呼べるのか、という疑問が残るのも確かだ。


だから、これを「フィットネス」と定義してしまうとあまりよろしくないのではないかと思うわけだ。運営会社では「手軽なワンコインフィットネス」をコンセプトにしているが、それはちょっと違んじゃないだろうか。なぜならフィットネスをしたい人はやはり体を自発的に動かしたいのであり、マシンに乗っかってほよよ〜んとしているだけでは、満足感なんてきっと得られないはずだから。


流行りの30分コンビニフィットネスが受けている理由は、30分できっちりサーキットトレーニングを『こなせる』ことにある。たとえ30分といえどもサーキットトレーニングをやれば、それはかなりハードな運動になる。それでも女性たちが通うのは、体を動かしたい欲求があるからだろう。なんといっても人間だって「動く物」ですから。


もちろん健康のために、あるいは美容のためにといった目的もある。だからといって薬を飲んででも健康になればいいやって人や、ごはんを食べないでダイエットでスリムになれたらそれでいいのって人は、間違ってもコンビニフィットネスに行ったりはしない。同じ目的を達成するためとはいえ、体を動かすことに「快」を感じる人たちこそがコンビニフィットネスに通っているはずだ。この気持ちよく体を動かすことがフィットネスの肝である。


だからVーバランスをフィットネスということに抵抗を感じるのだ。マーケティング的にいうと、もったいないと思うわけだ。ただ10分500円は目の付けどころとしてとても良いと思う。さらに、あれもこれもと器具を欲張らず「Vーバランス」一つに絞り込んでいるのも、ユーザーシーズ、話題性、仕入ボリュームディスカウントにメンテナンスなど諸々を考慮した最適解の一つなのだろう。


ただし、これを「フィットネス」で括るのはどうだろうか。人がフィットネスに求めるものは、もちろん一つだけではない。体を動かすことによる発散効果もあれば、シェイプアップもある。メタボリック予防も、単にやせたいだけという場合もあれば、とにかくヘルシーでいたいというニーズもある。いや汗さえ流すことができればいいんだって人もいるだろう。その中の一つとして、マシンに揺さぶられていたいということだってもしかしたらあるのかもしれない。


仮にそうだとしてもだ、それはあくまでもフィットネスの中のごく限られたニーズでしかないはずだ。もしこの運動(?)で画期的にやせたり、ビリーズブートキャンプみたいにとにかく腹筋が付く、みたいな明示的な効果を得られるのなら、そこに絞り込んだアピールをすべきだろう。その効果が誰にでも体験できるぐらい強烈なものなら、それをこそコンセプトにすべきだと思う。


あるいは、そこまではっきりしたことがいえないのなら、ここは一番「フィットネス」ではなくて「ゆらゆら瞑想効果」ぐらいのことを言ってみればどうなんだろう。それなら、たぶんFMO的にも(要するにFirst、Most、Onlyということで、この場合なら日本初とか東京でもここだけ、ぐらいだろうか)とんがったコンセプトをアピールできるんじゃないだろうか。


その上で脂肪燃焼はサブの扱いにとどめておき、たった10分の未体験「ゆらゆら効果」でストレス解消、脂肪も燃えちゃうぐらいのことを言ってみればどうだろうか。これだとフィットネスクラブとの勝負ではなく、もしかしたらブルーオーシャンを開拓できる可能性もある、ようにも思う。


また「着替えずに済む」「シャワーもしなくていい」「入会手続きも不要」「会員確認もいらない」など、従来のフィットネスクラブに付きまとっていた、さまざまな煩わしさをすべて取り除いている点は高く評価できる。ただし、これをもってフィットネスクラブに対する優位性としてアピールするよりは、とにかくフィットネスクラブとはまったく違うストレス解消空間なのだ、ということを全面的にアピールした方が絶対に良いと思うのだが。さて、この「ファースト・ファースト」、今後どんな展開になっていくのか、少し注意してみたい。


ポイントは、あくまでもフィットネス業界の『不』を解消するための新しいフィットネスとしてアピールした方が良いのか(これが現行路線だろう)、それともフィットネスとはまったく違った業態としてアピールした方が受けるのか。


カギは従来のフィットネスは、さまざまな『不』を乗り越えることで、より強い「快」をユーザーは得ることができた。あくまでもフィットネスのカウンターパート路線で突っ走るなら、この快/『不』バランスを、ワンコイン・フィットネスを超えられるかどうかである。


昨日のI/O

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生物と無生物のあいだ福岡伸一
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