しまむらの強さ


二年連続ベースアップ、三年連続特別賞与支給


婦人服チェーン「しまむら」の話である。同社は06年度までの3年間で従業員を約1400人増やし、さらに従業員一人あたり人件費も10%引き上げた。それでも営業利益は40%増え、07年2月期決算は売上高、営業利益、経常利益のすべてで6期連続過去最高を更新している(日経MJ新聞7月11日)。


人にお金をかけて、つまり投資して、狙った通りの(あるいは狙った以上の)投資対効果を得ていることになる。ということは、人に対する投資が的確に効果を生み出すような仕組み・仕掛けが、しまむらにはあることになる。一体どのようなメカニズムになっているのだろうか。


そもそもしまむらは優れたビジネスモデルを確立している企業である。独特の仕入と、チェーン内での商品融通システム、あくまでも郊外のロードサイドにこだわった出店戦略などで確固としたポジションを獲得している。たとえば商圏設定については5000世帯を1商圏とし、約300坪の店舗を構える。イニシャルコスト1億円で出店し、これを3年で回収する。


品揃えに関しては一店舗あたりでは少量仕入を徹底している。これは、しまむらで買った服が少なくとも商圏内ではほかの人と重ならないための配慮である。とはいえ一店あたりでの数は絞り込まれていても、それがグループ全体でとなるとそれなりのボリュームディスカウトをメーカーに要求できるだけのまとまった量となる。


さらにしまむらのすごさは、そのほぼ完璧な売り切りシステムにある。全商品は本部でデータベース化され、その販売動向によって店舗間での商品移動が頻繁に行なわれる。このシステムがあるおかげでしまむらの価格変更率(値引き)は業界平均の半分となる5%で収まっている。


つまり流通システムとして、高効率・高収益体制を整えているしまむらにとっては、残された最後の聖域が人の活用だったのだろう。


では、しまむらが採っている人(パートさん)活用策とはどんなものだろうか。人を活用するとは、雇われている側からいえば、積極的に働こうという意欲を持つことである。いわゆるモチベーションアップだが、そのためにしまむらがやっているのが改善提案制度だ。


パートさんは日々、効率よく作業できる改善点を考えてはせっせと本社に報告する。その数、なんと毎月3000件にも上る。一日あたり100件である。そしてしまむらのすごいところは、寄せられた改善提案の5%、約150件ほどをとりあえず実行してみる。実行してみて効果があった案はマニュアルに取り入れられる。


たとえば「レジ横両面留めおしぼり置き」である。紙幣を数えるときに指を湿らせるおしぼりをどこに置くか。作業の動きを考えてもっとも無駄がない場所に置くことをルール化すれば、お札を数える時間を短くできる。


と、このように文字で表わせばいかにもたいそうなことに思うかもしれない。しかし実際にはおそらく、おしぼりが置かれている場所を変えることで短縮される時間など多くて数秒、もしかしたらコンマ単位かもしれない。しかし、それでも改善であることには間違いない。お客様一人当たりのレジ清算時間が仮に1秒短縮されたとしたらどうなるか。


現時点でのしまむらの店舗数は1019店ある。1店あたりのレジ数が5として全レジ数は5095。この「レジ横両面留めおしぼり置き」作戦で1レジ/1日の清算時間が仮に100秒短縮されたとしたら、グループ全店では一日あたり約250万秒(=約700時間)もの時間短縮効果になる。この数字かける365をすれば年間での効果がでる。これがどれだけすごいかはすぐにわかるだろう。


700時間×365日×800円(同社のパートさんの時給)=約2億400万円。しまむらがこの「レジ横両面留めおしぼり置き」作戦を考えたパートさんにどのような報奨を出しているのかはわからない。が、パートさんの立場から考えれば、お金の問題ではなく「パートでありながらも」業務改善に貢献できている実感の方がモチベーションアップにつながっているのではないだろうか。


そして、パートさんがそのような改善を自分のモチベーションにできるということは、しまむらのビジョンや経営理念に彼女たちが共感しているからだと思う。


当たり前の話だけれど、人を動かすのは、やはりビジョンである。そして当たり前のことを、当たり前にやることは、それほど簡単じゃないなことじゃない。しまむらのケースは、そんなことを教えてくれているように思う。




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