”全巻”という切り口


月商2500万


規模はまだ小さいかもしれないが、おもしろい古本ビジネスがある。その名も『漫画全巻ドットコム(→ http://mangazenkan.com/)』。とにかく”全巻”が売りだ。


基本的には古本の漫画を仕入れて、売る。ここまでは古本屋さんと同じである。違いはシリーズ物の漫画をとにかく全巻揃えて売ることにある。明らかに、いわゆる『大人買い』を狙っているのだろう。


思い返せば子どもの頃は、マンガといえばとりあえず週刊誌を買うしかなかった。たとえば『巨人の星』や『あしたのジョー』を読みたければマガジンを、『ドカベン』や『魔太郎がくる』ならチャンピオン、『ストップひばり君』ならジャンプ、そして『男組』ならサンデーといった具合に(しっかし、こうやって並べてみると我ながらかなり偏った志向性をしているな)。


特に小遣いが極めて限られていた中高生時代に、コミックスの単行本を買うなどというのは夢のまた夢。仮にたまたま何かの臨時収入(お年玉とか)が入ったときには買おうと思えば買えないこともないのだが、それはそれで買いたいLPとどう折り合いをつけるのだというジレンマを抱えることになる。さらに買ったはいいが、何巻もあるコミックスの中の一冊だけを手に入れてもなあ、という諦めにも似た気分があるために、なかなかコミックスに手を出すことはできなかった。


大学に入り、バイトをするようになり、そこそこ自由になるお金が手に入るようになるとコミックスを買い集めるようになった。が、いつまでも漫画をよんでいるわけにもいかず、それっきりになっていた。


ところが子どもが漫画を読み出す年頃になると、またたまに読んでみようかという気になる。読んでみると昔読んだ漫画は、懐かしいし、クォリティも高い(ような気がする、大友克洋とかは特にそう思いますね)。今なら、古本だったら20巻一括買いができるぞと思うのだが、さて。


古本屋を息子と一緒に回っても、なかなか全巻揃っているケースがないのだ。揃ってたら買うのに、と客に思わせるのは明らかに販売機会ロスである。といった流れで思いついたビジネスモデルなのかどうかはわからないけれど、ともかく『全巻』はよい目の付けどころだ。少なくとも古本屋の中では、とんがった差別化ポイントになる。


しかも全巻セットに限定することで、販売サイドだけにとどまらず仕入面でもメリットがある。つまりこの「漫画全巻ドットコム」で全巻セットを買った客が、今度は売り手になることもある。これだけはどうしても手元に置いておきたいという愛玩シリーズはともかくとして、全巻で30巻とか50巻とかのコミックスを置いておけるだけのゆとりある環境に暮らしている人はそうは多くないはずだ。


となると勢いに任せて買ってしまったはいいが、いったん読み切ってしまうと今度は全巻揃っていることが逆に邪魔になったりする。「そんなときは、ぜひお気軽にお声がけください」ということなのだろう。すると、この「漫画全巻ドットコム」は常に、労せずしてコミックシリーズを全巻セットで流通させるルートを確保できる。全巻セットだから付加価値も高い。すなわち利益率もそこそこには高いのだろう。なかなか賢いビジネスである。


さらに、同社はリスクを抑える工夫もしている。


すなわち起業当初は在庫を持たなかったのだ。要するにネット販売なのだから商品供給のメドさえ立っているなら、在庫を抱える必要などまったくない。注文が入るたびに、どこかから(ブックオフでも良いし、ネットオークションでも良いし)仕入れてくればよいわけだ。これならビジネスを始めるにあたってのイニシャルコストは、サイト構築費だけで済む。


そして売上高の伸びに応じて在庫を増やす戦略を採ってきた。これぞリソースの適切配分であり、すなわちまさに戦略である。そして、次なる一手として新刊の扱いも始めた。地道だけれど、実に着実で手堅い成長路線をたどっているのではないだろうか。


事業コンセプトはあくまでも『漫画コミックスを全巻揃えて』である。いずれはリアルな店舗を出店する計画もあるようだ。この『漫画全巻ドットコム』は、今後の動きに注目したい企業の一つである。


昨日のI/O

In:
『Think』
Out:
FPN投稿原稿
えきペディアサイト用原稿


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昨日の稽古: