折れない心


その女性は足首のじん帯を痛めていた


昇段審査二日前、護身の稽古をしているときに足首を変な方向に激しく捻ったのだ。次の日もまともに歩くことができず、審査に臨んでも正座できない状態だった。


それでも淡々と審査項目をこなしていく。基本をこなし補強をやり、護身も無事にやり遂げ、残すは五人組手のみとなった。これは単純なフルコンルールでの組手ではなく、掴みも投げもありだ。そして最後は顔面攻撃もありとなる。女性にとっては、相当に厳しい審査である。


その一人目で彼女は奇声を上げた。すぐ側で聞いていた私にその声は「アギャッ!」といった音に聞こえた。なぜ、そんな声が出たかはすぐにわかった。組手の最中に彼女は、痛めている足で下段蹴りを放ったのだ。下段蹴りは自分の足首の少し上、ちょうどすねの一番下のあたりを相手の太ももめがけて放つ技である。


まともに歩けないぐらいにじん帯を痛めている足首を、相手のももにぶつければどうなるかは誰にでもわかる。もちろん、ただでは済まない。あまりの痛みのせいだろう、彼女は一瞬崩れ落ちそうになった。が、倒れなかった。まさにお腹の底から振り絞るような気合いとともに立ち上がったのだ。痛みのある足で踏ん張って。


普段から気丈な女性ではあったが、それでも顔はクシャクシャに見えた。よほどの痛みと戦っていることは、傍目にもはっきりと伝わってくる。しかし、彼女は折れなかった。


一人目を互角に戦い抜き、二人目にはやや優勢に組手を進める。ここまでは相手も女性だ。そして三人目からは黒帯の男性が相手となる。痛めている足で蹴るのはもちろん地獄、その足を軸足としてもう一方の足で蹴るのも同じく地獄である。じん帯を痛めたことのない自分には正確なことはわからないが、どれほどの痛みに耐えているのかはその顔からはっきりと伝わってくる。


何かの拍子に痛めている部分に力が加わるたびに顔が歪む。そして彼女は顔が歪むたびに、自分を鼓舞するように気合いをいれた。これまでにいろんな試合を見た。先輩たちの昇段審査も幾度となく見せてもらった。しかし、これほどまでに勇気の込められた気合いを耳にしたのは初めてではないだろうか。


最後に相手をされた黒帯の先輩は、自分の顔を前に突き出し、彼女に
「思いっきり殴って来い」と言い続けていた。その先輩の思いに応えて
彼女は必死で突きを繰り出し、さらには最後にもう一度、持てる力の限りを込めた下段蹴りを放った。


蹴りが当たると同時に、また叫んだ。叫んで倒れた。しかしすぐに気合いを、叫ぶような気合いを入れ直して立ち上がり、もう一度先輩に挑んでいった。足が痛いからといって、彼女が五人と組手をしている間に後ろに下がることはなかった。足が痛いからこそ、前に出てやろう。そんな気迫が、その組手からは伝わってきた。


未だに身体のあちこちが悪いからと自分に言い訳ばかりしている自分にとって、自分と闘うとはこういうことなのだ、折れない心とはこういう態度のことなのだという、まさに生きた教えとなった。


まわりで見ていた子どもたちにも、きっと彼らの心に直に届く教えとなっただろう。見事な昇段審査である。


杉川喜美子先輩、素晴らしい組手を見せていただきました。ありがとうございます。押忍。



昨日のI/O

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