「かわいい」シンドローム


女子高生にとっては今や自分の「持ち物すべて」がファッションになっている。


日経産業新聞2007年8月17日付のコラム「市場トレンド/私はこう読む」は、こんな書き出しで始まっている。その中にかなり興味深い一文があった。

女子中高生は「文字(のデザイン)が古い」と感じている。話を聞くと、明朝、ゴシックなど既存の文字やフォントは古くさく、満足できなくなっているのがわかる。「このパッケージにするなら文字はこうでしょ!」「『ダイエット』っていうのにやせそうに見えない」など、文字が商品全体の印象を左右するらしい。
(前掲、日経産業新聞


これが何を意味するのか。もしかして相当数の女子高生は文字を「読む」対象としてではなく「見る」対象として捉えているのではないだろうか。もちろん、女子高生全員があらゆる文字に対して同じ感覚を持っているとは思わないけれども。


明朝やゴシックに対しての感想に、文字を「見る」意識が象徴的に表れている。そもそも書体は何のためにあるのか、あるいはなぜさまざまな書体が開発されてきたのか。答は一つである。その文字が使われるTPOに応じて少しでも「読みやすく」したいというのが、さまざまな書体作家の思いだろう。だからといってデザイン性をないがしろにしていいという話ではない。デザイン性はもちろん追求するのである。ただし、その目的はあくまでも読みやすい文字を創りだすことにあったはずだ。


そうして読みやすさを求めてきた結果、おそらくは現時点で究極の書体とも呼べるのが明朝でありゴシックである。しかるに女子高生たちは、その文字を「古い」と切って捨てる。彼女たちにとっては、そんな古くさい文字よりも「かわいい」文字の方がよいのである。なぜなら彼女たちにとっての文字の評価基準は「読みやすさ」ではなく「かわいさ」にあるから。


ここで問題は、たまたま今日読んだ内田樹先生のテキスト『「矛盾」と書けない大学生』とシンクロする。先生は「矛盾」を「無純」と書いて平然としている女子大生について、なぜ、そうしたことが起こるのかを考察されている。詳細は下記のリンクをたどっていただきたいが、結論は「彼らが「飛ばし読み」という習慣を内在化させているから」となる。
http://www.gakushikai.or.jp/magazine/archives/archives_840.html


今の女子大生には「分からない文字は瞬時に飛ばして、読めなくても、気にしない」という「物忘れ機能」が初期設定でビルトインされている」と先生は書かれている。であるなら、女子大生の進化形が女子高生たちだと考えられはしないか。


すなわち女子高生たちにとって文字は、すでに飛ばし飛ばしとはいえ読むものでさえなく、見るものになっているのだ。文字を見るモノとして捉える感覚はおそらく、彼女たちがケータイの絵文字多用メールを愛用することとつながっているだろう。


ここは一つ、文字を読まなくなるとコミュニケーションがどう変わっていくのかを考えてみたい。まず予想されるのは、右脳/左脳バランスでみたときに女子高生たちは右脳が左脳よりも発達するだろうということ。悪くいえば論理的に考える力がなくなるともいえるが、逆にとても感性豊かになる可能性も決して否定できない。


わざわざ七面倒くさいロジックで会話を組み立てなくとも、もっと直感的に分かりあえるコミュニケーションが展開される可能性もある。ただし、そうしたコミュニケーションが成立するのは、同じコード体系の中にいる人たち同志に限られるから、とりあえず私のようなオッサンと彼女たちとの間にコミュニケーションが成り立つことはまずなくなるだろう。


また彼女たちは筋道を追ってねちっこく考えるより、瞬間的感覚的に判断することを好むはずだ。話が早いのである。ぐちゃぐちゃ言ってるより、さっさと結論を出していくのである。何ごとも即断即決で、間違ったら速攻訂正すればいい、というのは先端的な外資系企業のマネジメント方針ではないか。なかなか、彼女たちは進んでいるのかもしれない。


その場合の究極の判断基準がたぶん「かわいい」とか「かっこいい」となる。しかし、この場合も何が「かわいい」のかが明示的に言葉で定義されることはまずあり得ない。同時に彼女たちの行動エリアや嗜好性によって、ひとくちに「かわいい」といっても、その内容は実に多種多彩な意味の広がりを持つことになるだろう。


もとより彼女たちが、どんな条件の下でも文字を「読まない」などというつもりもない。自分が関心を持つ対象については、読める範囲で読むはずだ。その意味ではケータイ小説などは、彼女たちにとっては格好の読む素材なのかもしれない。とはいえ読めない文字をサクッとスルーする傾向は変わらないだろう。


それならケータイ小説の作者たちもあえてスルーされるような難しい漢字を使うことはない。やさしくわかりやすい言葉を選ぶほうが自作の商品価値が上がるとなれば、選択される言葉は自然とより簡易かつできるなら「かわいい」フレーズへとシフトしていく。


そのうち、もしかしたら絵文字だけで描かれた「絵文字小説」なるものが登場する可能性だって考えられる・・・。


暑さボケのせいか、白昼夢みたいな内容のエントリーになってしまった。



昨日のI/O

In:
『ロジカルリスニング/船川淳志』
Out:
某ソフト開発物語
井出亜理京都大学教授インタビュー原稿


メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「コンベヤをなくせ」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
 「二つの『三つの視点』」
http://www.insightnow.jp/article/373

FPN最新エントリー
 「時間は魔法」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2595
 ※以前、ブログに書いた内容に手を加えてみました

昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋、腕立て伏せ