バーチャルの可能性と限界


ネットでメガネを試着できる


ビジョンメガネが始めたネット通販サイト「どこでもメガネ」だ(→ http://www.dokodemomegane.com/doko2/)。このサイトに行くと視力検査に始まりメガネの試着ができて、もちろん通信販売で買うこともできる。サイトの何よりの売りはバーチャル試着システムである。


いろんなメガネをかけてみたときに、自分の顔がどうなるのか。フレームのデザインによりレンズのカラーにより、顔の印象は大きく変わるはずだ。ところがリアルなメガネ屋さんに行くと、たいていの場合は販売員さんが「お似合いですよ」だとか適当なことをいって寄ってくる。自分で自分のことを好きになれるメガネを心行くまで選びたい人にとっては、販売員さんはうざいだけの存在である。


そこにジレンマがあった。つまりニーズがあった。だからネット上のバーチャルメガネ試着室はいける、というのがビジョンメガネの判断だったのだろう。


バーチャルメガネ試着に煩わしい作業は基本的に不要である。とりあえず自分の顔写真データをサイトに転送すればそれで準備はOK。最近はカメラといえばデジカメだから、自分の顔写真ぐらいはたいていパソコンに何枚かあるだろう。顔写真データが転送されれば、好きなメガネを選んでクリックするだけでよい。これでモニター上の自分の写真にメガネをかけた画像を作って見せてくれる。誰に邪魔されることもなく、好きなだけメガネ選びをすることができる。


これは結構画期的なシステムだと思う。ネット通販の最大のメリットは検索である。つまり現実のお店ではあり得ないような選択肢の中から、自分が気に入るものを瞬時に検索して選べること。Amazon然り楽天然りである。


ところがファッション系アイテムは、今ひとつネット通販が盛り上がっていない。なぜなら、それを買って身に付けたときの自分のファッショナブルな姿を確認できなかったからだ。メガネの場合は、さらに視力チェックもきちんとやらなければならない。いくらカッコよく似合っているメガネでも、モノをはっきりと見ることができないのでは意味がない。


ファッション性のチェックと視力のチェック。この2点の課題を解消したのがビジョンメガネのネットショップ「どこでもメガネ」である。一時ほどの勢いこそ衰えたとはいえ、依然として「メガネ男子」ブームはしっかりと続いている(のかしらん)。だから納得のいくメガネ選びをしたい男子は、このサイトに続々と集まってきている、とはいかないようだ。


現状は月に1万件のアクセスがあり、そのうちに購買にまでいくのが約50件だという(日経MJ新聞2007年8月20日)。客単価は2万円程度、ということは月間の売上にして100万。年間1200万の売上ではおそらくシステム開発コストもペイしないだろう。


自分マーケティングリサーチ(要するに自分が客だったらどうするかをかんがえてみるわけです)をやってみれば、このサイトで私がメガネを買うことはまずないことがよくわかる。メガネ歴35年のベテランメガネストとしては、いくら自分を実物以上によく見せてくれるメガネをネットで見つけたとしても「じゃあ、それください」とはならない。


なぜなら自分にとってメガネは、決してファッションアイテムなどではなく、安全かつ安心して生きていくために決定的な役割を果たす死活品だからだ。片方の裸眼視力が0.1に達しない「どチカメ」にとっては、メガネの出来不出来は人生の質を左右するほどの一大事である。それほど大切なメガネ選びを、実物をかけることなくネットだけで選ぶことなどできるはずがないではないか。


もっとも、このあたりの感覚は年齢によって(というよりも嗜好性や経済的なゆとりに応じてといった方が正確かもしれないが)大きく変わってくるのだろう。ともかくカッコいい「メガネ男子」を目指す人たちにとっては、かけ心地よりは見た目である。そのための投資額が2万円ぐらいとすれば、仮にちょっと失敗したとしてもそれほど痛くはない金額である。この「どこでもメガネ」の認知度さえ上がってくれば、売上ももっと増えていく可能性はある。


ところが私のような「メガネ=Q.O.L(生活の質)」的に大げさな捉え方をするタイプにとっては、ネットで思う存分選んだ後に、実際に買うのはお店で確かめてからということになる。このあたりの連動性というか、ネットだけで完結するのではなくリアルなショップとの連係プレーでサポートしてくれるならかなり魅力的なサービスになりうる可能性は秘めている。


バーチャルな世界の進化は著しいし、これから先もどんどん進化していくことは間違いないだろう。しかし、どこまでバーチャル化が進んだとしても、自分が選んだメガネのかけ心地や見え具合をリアルに実感させてくれることはないはずだ。このあたりにいま流行りのセカンドライフを含めてバーチャルの決定的な限界があると思うのだけれど、どうなんだろうか。




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