あなたの音楽人格は


又聞き(というか正確には又読みか)で申し訳ないが。


一昨日(8月23日)の日経産業新聞に面白いコラムがあった。ちょっと長くなるが引用させてもらう。

ニューヨークの地下鉄駅で白いイヤホンをつけた若い女性にいきなり「iPod」で何を聞いているか見せっこをしようと”勝負”を挑まれる。ペット・ショップ・ボーイズの感傷的なナンバーを聞いていた男は、その女性が自分の液晶画面で「知る人ぞ知る」70年代パンクロックの曲名をかざすのを見せつけられ、敗北感を味わうーー。
日経産業新聞2007年8月23日 眼光紙背「音楽市場に大人のニーズ」)


さしずめ男が聞いていた感傷的なペット・ショップ・ボーイズのナンバーとは『ウエスト・エンド・ガールズ』、女が見せつけたパンクの曲名とは『タンク/ストラングラーズ』とか『ロンドンコーリング/クラッシュ』あたりだろうか。


そんな勝負が一般的に広まったら、さぞかしおもしろいだろう。とりあえず公共の場での『iPodルール』が制定される。このルールは極めて単純。iPodを聞いているもの同士が出会って、どちらかが音楽人格勝負を挑んだとき、相手は勝負を決して拒んではいけない。iPodの中にどんな曲が入っているかではなく、勝負を挑まれた時点で何を聞いているかで勝敗が決まる。


勝ち負けの基準は、どちらがより「クール」か。何をもって「クール」とするかは、戦っているもの同士で決めるしかない。当然、TPOも判断材料となる。どうしても勝負がつかない場合は仕方がない、その場の状況を写真でも添えてAppleに送って判定してもらう・・・。


案外、こんなゲームがはやる下地が、少なくとも日本にはあるのではないか。


実は日本ではとても多くの人が知らず知らずのうちに自分の音楽人格を赤の他人に知らしめているからだ。ケータイの着メロである。なぜに、かくも多様な着メロが用意されているのか。おそらくはニーズがあるからだ。では、そのニーズとは何だろうか。


自分の着メロをまわりにいる人に聞かせることで、自分の音楽人格を主張したいがためだろう。着信音の本来的な機能は、受信通知である。要するに電話が掛かってきたことを確実に持ち主に知らせることだ。ところがケータイが普及するにつれて、着信音のいくつかのバリエーションだけでは問題が起こるようになった。つまり、自分の近くに同じ着信音を設定している人がいると、自分のケータイが鳴っているのか、人のケータイなのかがわかりなくなる。


そこで着信音のバリエーションとして着メロが開発されたのだと推測する。ところが着メロは着信音とは違う。何が違うかといえば、どんなメロディを鳴らすかによって「あ〜、なるほど。この人はこういう音楽が好きなのね」とまわりにいる人に知らせる効果がある。それが引いては、その着信音を選んだ人の音楽人格にもつながると見なされる。


こうなると大変である。


着メロぐらいで人格を判断されては困るとはいえ、たとえば電車の中でいかにも「だっさい」音楽を自分のケータイが発しでもしたら恥ずかしいではないか。ということで着メロは驚くばかりのバリエーションを持つようになり、さらにそれだけでは飽き足らないとばかりに着うたフルへと進化していったのではないだろうか。


本来はどんな音楽を聴いているかで、その人の人格がわかったりはしないものだ。ものすごくやさしくて知的なお母さん(29歳)が、実はマリリンマンソンの大ファンだった、なんてケースもある。めっちゃ今風イケメン兄ちゃんが、もしかしたら家では北島三郎を大音響で聞きまくっていることだってあるだろう。だから、どうだって話だ。


ところが「自分はこんな音楽を聞いているんだぜ(だから、君たちとはちょっと違うんだぜ)」ということを、まわりに無性にアピールしたくなる時期がある。
特に若い頃はそうだ。街中をわざわざスピーカーを外に向けてるんじゃないかと思わせるような(実際にやってる人もいるみたいだけれど)大音響を立てて走っている車なんかもその典型だ。


もちろん、人がどんな音楽を好むかは、その人となりを知る手がかりにはなる。だから音楽人格は、その人の全人格の一つの側面ぐらいには考えていいのだろう。初対面の人と話すときに「ときに、音楽のご趣味は?」といった質問から会話が転がることだってあるだろう。また同年代の人となら、やはり「どんなん聞いてきた?」が話の糸口にはなり得る。が、それはそれである。


音楽人格があるなら、映画人格だってあるし、もちろん読書人格もある。いやいや住まい人格だってあるし、ファッション人格もグルメ人格も彼女(彼氏)人格だってあるではないか。ということをわかった上での音楽人格及びiPod勝負ならやってやろうじゃないか、とは思いますけれどね。




昨日のI/O

In:
ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』
Out:
某ソフト開発物語
FPN原稿
メルマガ


メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「今だから内製化」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
 「コミュニケーションの真髄は『謎』にあり」
http://www.insightnow.jp/article/400

FPN最新エントリー
 「ケータイブログの問題点」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2615

昨日の稽古: