人間力の活用


購入問い合わせメールが一万件


ロボットスーツ「HAL」を開発したサイバーダイン社の山海社長(教授)にパソコンには、一万通近い未読メールがある。その多くが世界各国から寄せられたHAL購入の問い合わせだという(日経産業新聞2007年8月28日)。


ロボットスーツHALとは、人の体の一部として動くロボットである。これを体に装着すれば重いものを軽々と持ち上げたり、手足を思うように動かせない人が自分で歩いたりできる。だから単なるロボットではなくロボット「スーツ」なのだ。


ロボットといえば日本が世界の最先端を突っ走っている数少ない分野である。産業ロボットはもとよりヒューマノイドロボットでも、阪大・石黒教授が自分にそっくりのロボットを開発するまでに至っている。メカニックな部分では日本のロボット技術は相当進んでいるが、それでも未だに超えられないのが人間の知能だ。


石黒教授、あるいはロボカップで知られる浅田阪大教授のお二人共がロボット研究を突き詰めると人間の本質を探ることになるとインタビューで答えていた。まさにロボット学の核心は、人間的知能の創造と理解にあるわけだ。


その方向線上で詰めていくのがロボット研究の一つの路線である。しかし、ロボット研究には別の方向性もある。つまり現時点では人間にしか担うことができない知能面までをロボット任せにすることなく、人間が苦手とする部分のみをロボットに担わせる。この考え方を追求した結果、生まれたのがロボットスーツHALだ。


結果的にHALは、現時点では石黒教授らが開発しているロボットよりも早く実用化レベルに達した。求める機能を割り切ったからこそ実用化を早めることができたのだ。


これと似たような話がある。機能を割り切り、人の力を最大限活用することで優れた成果を早く出す。翻訳サポートソフトである。


翻訳についても、自動翻訳ソフトの開発に各社が鎬を削っている。ところが残念なことに未だにその精度は高くない。かのビル・ゲイツも本格的な人工知能が実現しない限りは機械翻訳が実用レベルに達することはないといっているらしい(→ http://trans.kato.gr.jp/software.html)。


翻訳ソフトを使われた方はご存知だろうが、わからない単語の意味を調べたり、ごくごく大雑把に意味を掴むぐらいなら翻訳ソフトも使えないことはないだろう。しかし、たとえば厳密さを求められる翻訳を機械翻訳でこなすことはまだまだ無理。だからこそソフト開発各社はその精度アップ競争での先陣争いをやっているわけだ。


ところが、翻訳に関してもパソコンの限界を最初から見切り、人がやるべき作業とパソコンに任せる作業を切り分けたソフト開発をしている企業がある。MCLという本来は翻訳を専門とする企業だ。同社が開発した『対訳君』は自動翻訳ソフトではなく、あくまでも翻訳支援ソフトである(→ http://www.mcl-corp.jp/taiyaku/taiyaku-outline.htm)。


翻訳そのものは人が行なう。そこでソフトが担う役割は人の作業の徹底サポートだ。ソフトの役割をこのように限定することで逆に、ソフトが果たせる役割が充実した。対訳君の詳しい内容については同社のホームページにあるが、ポイントは辞書をひきやすくしたことと例文を参照できるようにしたことにある。


辞書を引きやすくというのは、複数辞書を一回のキーワード入力で検索できる串刺し検索システムの実装である。さらに例文参照については、英文とその訳文を同時に検索できる対訳検索システムを実装している。翻訳そのものは人が受け持つ。そのための可能な限りのサポートをソフトが担う。この切り分けがプロの翻訳者から高く評価されるソフトにつながった。


ロボット、ソフトそしてシステムの使い方のヒントが、HALと対訳君の事例にあるように思う。ポイントは人の力を信じて、人にしかできないことは人がやるという割り切りだ。人間力の見極めと活用は、IT化がさらに進むことが予測されるこれからの重要なキーワードだと思う。





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