旅する支社カヤック


昨年の海外支社はフィレンツェ


といってもフィレンツェに支社を作ったわけではない。何のこっちゃと思われるかもしれないが、毎年海外の都市に支社を作ろうとしている会社がある。でも、その支社は永続的なものではなくて、すぐに(だいたい2ヶ月ほど)閉められてしまう。ちょっと「?」でしょう。


これを称して『旅する支社』という。


鎌倉に本拠を置くシステム会社カヤック(→ http://www.kayac.com/)のとびっきりおもしろい制度が、この期間限定海外支社である(日経産業新聞2007年9月3日付け)。期間限定とはいえ、わざわざフィレンツェ(イタリアですよ)に支社を開くからにはきっと、クライアント企業がフィレンツェもしくはイタリアで業務を行なうから、そのシステム開発とかサポートのためかと思いきや、そうじゃない。さらに「?」でしょう。


じゃヨーロッパのどこかで仕事をする必要があるから、とりあえず何かのコネがあるフィレンツェを選んだのか、といえばそうでもない。昨年開設されたフィレンツェ支社に行ったのは全社員の半分ぐらい、人数にして15人程度らしい。社員は4チームに分かれ時期をずらして2週間ずつ支社で働いた。というから、恐らくは社内のいろんな人が(要するに特定のプロジェクトに関わっているのではない人たちが)適当に(というと語弊があるかも知れないけれど)フィレンツェに行って好きなように仕事をしていたということになる。「???」ですね。


一体カヤックが何をやっているかというと、社員に気分転換してもらい、さらには独創性を磨いてもらうために年一回、費用会社持ちで海外旅行に行かせているというわけ。ただし、ただ遊びに海外旅行に行くのではなくて、海外にきちんと仕事をできるベースを作り、そこにだいたい二週間ずつ詰めてプログラムを組んだり、ウェブデザインをしてもらったりする。


こういう仕事であれば、プロジェクトの最初にある程度ベーシックな要件を掴んでおけば、実際のワークはどこでもやれる。一つ条件をつけるとすれば、インターネットに高速回線でつながるところ、というぐらいだろう。ネットにさえつながれば、仕事の進行状況はいつでも確認できるし、メールで連絡もつく。何だったらメッセンジャーなどを使ってチャットしながら作業を進めることもできる。スカイプを使えばネットテレビ電話会議だって可能だ。


はてな」が有名だけれど、システム会社で最近流行っている(というと大げさかもしれないけれど)開発合宿を海外で、しかも緩めにやっていると考えても良いのかもしれない。


この「緩めに」というところが、カヤック『旅する支社』のよいところだと思う。なにしろこの海外支社出張には家族同伴が認められている(家族の分の交通費までは見てくれないようだ、当たり前だけれど)。だから2週間、家族と一緒に海外で暮らしながら、日本の仕事をすることになるわけだ。おもしろいことをしている会社である。


おもしろいといえばカヤックの本社は鎌倉にある。由比ケ浜海岸のすぐ近く、ちょっと会社を抜け出してサーフィンを楽しめるぐらいの立地だそうだ。実際に波の良いときには早朝や夕方にちょいとサーファーしてくる社員さんもいるらしい。もちろん、そういうことを想定して本社をわざわざ鎌倉に置いているわけだ。


とはいえクライアントは地元にいるわけじゃない。やはり都心である。打合せには都内まで出向くことが必要だ。が、電車に乗っている一時間ぐらいは、ちょうどいい仕事時間ではないか、とこの会社は考えている。確かに座席を確保することさえ出来れば、さらには最近なら電車の中でもネットにつながるから、車中はなかなか快適な仕事空間である。しかもちょうど一時間ぐらいなら仕事を始めて、集中して、ちょっと疲れたなと感じる頃に電車を降りるぐらいの時間配分になる。よく考えられている。


カヤックは決して思いつきで鎌倉に本社を構えたり、受けを狙って旅する支社制度を実施しているのではないのだと思う。なぜなら同社の経営理念は「つくる人を増やす」である。この「つくる人」という言葉にはライターとしてやられた感がある。いろんな意味が込められていて、その多様な意味が極めて簡潔に表現された言葉だ。お見事である。その「つくる人」を「増やす」ことがカヤックの経営理念である。


言葉はやさしいけれど、その意味するものはゆるぎない。カチッとした経営理念があるからこその本社所在地であり、海外支社制度であることがわかる。さらにこうした制度が優秀な人材を引き寄せる誘因としても機能している。


旅する支社フィレンツェ版にかかったコストは総額280万ぐらいだったらしいが、これだけのコストをかけただけの果実はきちんと受けとっているはずだ。とりあえず日経産業新聞に大きく取り上げられただけでも、十分に元は取れているだろう。そしてこの記事の波及効果で、優れた人材を確保できれば、費用対効果はうんと高くなる。


こうしたいろんな表面的な成果は、すべて「つくる人を増やす」という経営理念に根ざしている。はてなの「変な会社」というコンセプトもおもしろかったけれどカヤックも相当ユニークだ。ホームページにもそのユニークさは十分に発揮されている(→ http://www.kayac.com/)こんなユニークな会社がどんどんできてくると、いいなあと思う。



昨日のI/O

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