漢字を手書きする意味


ケータイ約80%、辞書約35%


二十代の人たちが漢字を調べるツールである(日本経済新聞2007年9月8日)。ケータイが辞書代わりになっているとは思わなかった。文化庁が行なった「国語に関する世論調査」の結果である。結果はともかく、一つ疑問がある。


ケータイで漢字の書き方を調べるというのは、確かに意外な使い方(と感じるのは私だけかもしれないけれど)ではあるが、いわれてみればあり得る話だと思う。だが、二十代の人たちは一体何のために漢字の書き方を調べているのだろうか。書き方を調べるというからには、その必要があってこそのはず。つまり何かを手書きするためだろう。


とすると若い人たちは、どんなことを、どんな紙(でしょうね)に書いているのだろうか。たとえば学生さんなら授業のノートを取っているのかもしれない。でも、授業ノートを書いているのなら、たいていの場合は一々漢字の正確な書き方にこだわったりはしないはずだ。そりゃ、ものすごく几帳面な学生も中にはいるだろうが、ノートなんて基本的には人に見せるものではないのだから、字の形なんて適当でもいいでしょうに。要はあとから自分が読んで、何が書いてあるかわかればいいのだから。


あるいはレポートでも書いているのだろうか。でも、今どきレポートを手書きするのだろうか。二十代ということに限って考えるなら、社会人であればレポートを書くのにはまずパソコンを使うだろう。違うのかしらん。今どきの仕事場で手書きで何かやっているとはあまり考えられないのだけれど。ただ学生さんの場合は、まだまだ手書き派がいるのかもしれない。大学によっては入学時にノートパソコンを支給してくれるところもあるらしいけれど、大学生のパソコン普及率はそれほど高くない可能性もある。実際のところ、どうなんだろう?


とはいえ仮に手書きだとしても卒論でもない限りはレポートで誤字・脱字をそれほど気にするんだろうか。自分に限っていえば、漢字を正しく書けているかどうかを最も気にする手書きの文書といえば手紙である。もしかしたら秘かに手紙ブームなんてことが起こっているのかもしれない。特に二十代の方たちなどは何でもケータイメールで済ませていると思っていたけれど、意外に手書きの手紙を好んでいるのだろうか。


とりあえずはケータイを使ってでも、漢字を正しく書くクセを付けることは良いことだと思う。今どきのケータイは国語辞書に英和・和英辞書も付いている。これを使って意味がわからない言葉などもどんどん調べればいい。その意味ではケータイの辞書はもっと手軽に使えるようになるべきだし、中身も充実させてもらいたい。これで類語辞典なんかも使えるようになれば、原稿仕事をするときにも使えるかもしれない。


自分を振りかえってみると、手書きをしなくなったことは大きな問題だと感じている。手書きとキーボード入力では圧倒的に早さが違うから、仕事ではキーボード一辺倒になってしまう。書き物仕事をしている身としては、キーボードで書く(正確には打つというべきか)ことで大きなメリットを得ていることも事実。同じ文字数を書くことを思えば、キーボード入力はたぶん手書きの十倍ぐらい早い。早いということはたくさん書ける。しかも書いては消し、消しては書き直しも簡単にできる。このあたりは手書きでは考えられないメリットだ。


スピードが遅い分、手書きなら一字一句を吟味して書くから文章が丁寧になるとか、味わい深い文章になるなどという意見も確かにあるけれど、少なくとも自分の場合はそうは思わない。それよりも早く書いて、書いたものを何度も書き直したり、推敲を重ねたりする方がよほど文章としてはまともなものになる。


それはそれで良いのだけれど、手書きをしなくなると漢字をうまく、きれいに書けなくなる。これが困る。というか漢字の本当の形を忘れてしまうことが問題だと思うのだ。いうまでもなく漢字は象形文字指事文字、会意文字、形成文字もあるけれど)である。すべての漢字が象形文字というわけではないが、漢字の形には一つひとつに意味がある。だから手書きで漢字を正しく書くことは、その漢字を自分の「もの」とするために必要な手続きだと思う。


そして正しく書かれた漢字は美しい。その美しさは漢字が生まれ以来いろんな人の手によって、どうすれば読みやすくきれいな形となるかが追求されてきた結果である。元々の形(たとえば魚などは本当の魚のかたちを模して考えられた文字だ)をベースに、それを今の字の形にまで極めてきた人たちの努力が、一つひとつの漢字の形には込められている。


だから漢字を正しく手書きすることは、そうした人たちの努力を自分も受け継ぐことを意味する。文字に対する美意識については、とりあえず日本人なら漢字とかなのきれいな文字を美しいと感じるようにプログラムされているのではないだろうか(って何を言いたいのかよくわからない文章になっているけれど)。


どんな文字を美しいと思うのか、自分の美意識を再確認する意味でも、正しい漢字をきれいに書けるように練習する必要がある。正しい漢字をきれいに書くためには、たぶんその漢字の成り立ちと意味を知ることも必要だろう。


と思うのだけれど、たとえば繁体字をやめて簡体字に変えてしまった中国の人たちはどうなんだろう。とりあえず自分が出会った限りの中国の人についていえば、みんなとても個性的な字を書いていて、何を書いているのか読めないことが多かったけれど。



昨日のI/O

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