上場しないメリット


「へんな会社」のつくり方 (NT2X)

「へんな会社」のつくり方 (NT2X)

「へんな会社」のつくり方』を読んだ。株式会社はてなの話である。


同社ではたとえば
・会議は立ったままする
・開発合宿に行く
・図書館で仕事してかまわない
・週休二日だけれど好きな時にとって良し
といった現象が取り上げられて「へんな」会社といわれる「はてな」だけれど、業務内容や考え方は実はちっとも「変」じゃない。極めてまともだ。


その「はてな」は上場してもちっともおかしくないぐらいの業務内容であり、規模でもあるけれど頑に(かどうか本当のところはわからないけれど、とりあえずいまのところは)上場を拒んでいる。あえて上場しない道を選んでいるのだ。


あるいはツバキ・ナカシマという会社がある。精密ボール分野では世界ナンバーワンといってよい企業であり、東証一部に上場していた。が、ここはMEBO(マネジメント・エンプロヤー・バイアウト→ http://www.nomura.co.jp/terms/english/m/mebo.html)なる方策を使って上場を自ら廃止してしまった。株主に気をとらわれるとどうしても意思決定に鋭さが欠けてしまうというのが、上場廃止の理由だ。


その上で同社は、たとえば思いきったアジアシフトを考えている。ヨーロッパに展開している生産拠点の閉鎖までを視野に入れている。現状でも業績が悪いわけではまったくなく、それどころか落ち込む傾向すら見せてはいない。しかし同社経営陣には強烈な危機感があり、これからの拠点整備をするならアジアだという意思統一ができているのだろう。そんなときに一々株主にお伺いを立ててという手続を踏まざるを得ないようでは機動的な意思決定に支障をきたす。そんなところがあえて上場廃止に踏み切った理由だろうか。


ケータイ通販ではもはやダントツとなったゼイヴェルという会社がある。F1層に特化し、主にファッションアイテムをケータイからネットへと展開し、最近では「東京ガールズコレクション」を仕掛けてもいる企業だ。ここも少し前のエントリーでご紹介したようなユニークな制度をいくつも取り入れている。そして数多いベンチャーキャピタルからの出資話をすべて頑としてはねつけている。


そりゃそうだろう。いくら従業員のモチベーションアップのためとはいえ、最大の稼ぎ時であるクリスマスに社員をあえて休ませる、なんて経営判断は普通の投資家にはそう簡単には理解できないはずだ。


とわずかな例で結論めいたことを言うわけではないのだが、ユニークな(ということは差別化されたということでもあるが)経営を行なおうとするのであれば、上場しないメリットは確かにありそうだ。とはいえ決して出資をすべてはねつけるということではない。事業を回し、拡大していくための原資は必ず必要となる。だから経営者の考え方に共感し、その価値創造能力を認めた投資家からの出資は受け入れる。ここが上場(というか株式一般公開)との違いだろう。


一般公開してしまえば、経営サイドの方で株主を選ぶことはできない。そこで集まってくる株主は、それこそさまざまな思惑をもった人たちである。基本的な価値観が違えば、視点のスパンも違うだろう。そこに経営陣と株主との齟齬が起こるリスクは高い。だから必要がない限りは上場しない。これは賢明な選択肢だと思う。


もちろん事業の性質、市場ライフサイクルと事業の成長段階の絡みなどにより、どうしても資金が必要なケースもある。医薬系のバイオベンチャーなどがそうだ。この場合は、株式公開を含めてありとあらゆる手段を講じてでも巨額の資金を集めてこなければならない。


問題は、さして資金需要があるわけでもないのに「とにかく上場」をめざす企業(及びその経営者)の場合だろう。もちろん上場は資金需要を賄うためのものだけでなく、その企業が社会的に一応認められることでもある。まじめにコツコツとやってきて、そこそこの規模にもなった企業が、ではそろそろ我が社も上場をと考えるのは決して間違いだとは思わない。


しかし外部のカネを入れることに対して(=自社株式を一般公開することについて)あまりに無頓着な経営者が多いのではないか。そうした経営者の多くは、とりあえず公開したら自分の持っている株(未公開のままでは資産価値はほとんどない)に市場価格が付くことに浮かれがちである。一挙に資産○十億みたいな話である。そりゃこれまで地道にがんばってきたのだから、その成果が財産になればそれほどうれしいことはないだろう。


しかし、目の前に巨額のカネを積まれるとあっけないぐらいにヒトはカネに負けることもある。金銭感覚が狂ってしまう。すべての経営者がというわけではないが、そうなってしまった若手経営者を何人か見てきた。カネに転んでしまった人たちだ。そうなってしまうと創業時の思い、自分がその起業によって成し遂げようとしていた価値などを見失うことも多いだろう。


そうしたリスクを自覚している経営者は、あえて上場しない道を選んでいるとも考えられる。もちろん上場して自分の資産がいくらに膨れ上がろうと、逆にそんなことにまったく無頓着で、一年のうちで休むのは元日の午前中だけと言う日本電産の永守社長みたいな方もおられる。結局は人それぞれということなのかもしれないが。


『「へんな」会社のつくり方』を読んで、そんなことを思った。




昨日のI/O

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佐藤可士和の超整理術/佐藤可士和
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Z会加藤社長インタビューメモ
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「ひと手間かけて急がば回れ
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□InsightNow最新エントリー
 「京都企業、強さの秘密」
http://www.insightnow.jp/article/531

昨日の稽古:富雄中学校武道場

・準備体操
・補強運動
・基本稽古
・型稽古
・顔面稽古
・組手稽古