相撲界存続の危機


朝青龍時津風部屋


相撲界で相次いで問題が起こっている。いずれもいかに世間の常識と相撲界がかけ離れているかとか、あるいは協会の管理能力の欠如などが問題視されているようだが、少し違った視点から考えてみたい。


ポイントはトップのリーダーシップであり、ビジョンである。相撲協会のトップといえば対外的には北の湖親方ということになっている。実際朝青龍の問題にしても、今回の時津風部屋の問題にしても矢面に立たされているのは北の湖親方である。正直、運が悪いと思うしかわいそうにと同情もする。


もちろん望んで理事長となったのだろうが、おそらくは相撲協会のトップとして何を、どんな基準に基づいて、どう判断するかといったことは誰からも教えられていないはずだ。そんなややこしいことを考える必要などまったくなかった組織が相撲協会だったといっていい。これまでのところは。


だから理事長とはいうものの実質的には何もする必要はなく、基本的にはほかの理事たちより若干報酬面で恵まれたポジション、現役時代に横綱など実績を残した人間にふさわしい地位ぐらいにしか思われていなかったのだと推察する。


しかし相撲を取り巻く状況は、ここ数年で激変している。たとえば番付表の上位だけを見ても、ドラスティックな変化は明らかだろう。横綱初め幕内上位に日本人力士は一体何人いるのか。とりあえず両横綱は揃ってモンゴル人である。大関は、関脇は、小結はとみていったときに外国人力士と日本人の割合はどうなっているのか。


逆に考えれば、なぜ日本人が上位に上ってこれないのか。おそらくは新弟子としての入門者が減っているからだろう。分母である日本人力士の数が減っているのであれば、その中から強くなっていく人間の数も減っていく。自然の理である。今どきの子どもたちが、相撲のように閉鎖的な社会の中で、時として理不尽とも思えるような厳しいしつけにはたして耐え抜けるものかどうか。


現時点ではどうか、さらに近未来ではどうか、あるいは十年先、二十年先はどうかと考えていったときに、相撲界の未来は実は真っ暗ではないのか。国技といいながらトップを外国人に占められてしまい、いずれはルールまで外国人に有利なように変えられてしまった競技があることを私たちは知っている。柔道である。


柔道をいま、取り仕切ろうとしているのはヨーロッパであり、その裏にはたぶん何らかの利権が絡んでいるのだろう。とりあえずいま、そのことを類推するのが本意ではない。ただ肝に銘じておくべきは相撲が第二の柔道にならないという保証はどこにもない、ということだ。


ものすごく突飛な発想かもしれないが、もし朝青龍白鵬ら番付上位の外国人力士たちが反乱を起こして(誰か知恵者がプロデューサーとなり、さらにテレビ局とも話をつけて)しまえば、興行としてもメディアのコンテンツとしても人気を集められるのではないか。そのとき一方に残された人気者も実力者もほとんど残っていない日本人力士による「国技としての相撲」と、強くてユーニクなキャラクターを持つ強い力士が揃っているインターナショナルな「SUMO(仮称ですね)」とでは、どちらに集客力があるのか。


個人的には一目瞭然だと思う。もちろん現時点での相撲ファンからみれば、彼らの年齢層も考慮に入れての判断として国技としての相撲を支持する可能性が高い。しかし、その数は年を追うごとに減っていく。そのとき相撲協会はどうなるのか。


といった問題を相撲協会のお歴々に考えよ、という方がそもそも無理な相談なのだ。ましてや北の湖親方一人に対応させるのはさらにできない相談である。そしておそらくは横綱審議委員会の方々にも、そこまでの視点はないだろう。だからこその、これまでの状況なのだと思う。


しかし朝青龍の一件はともかく、今回の時津風部屋のリンチ殺人事件が、相撲界に及ぼす影響は計り知れないものがある。リンチで殺されるかもしれないような危険なところにあえて飛び込む青年が、これからも果たして出てくるだろうか。あるいは親は非常識な世界に子どもをあえて飛び込ませるだろうか。国内での影響が甚大であるばかりか、モンゴルの人たちからも日本の相撲界はとんでもないところだと思われる可能性もある。そうなれば相撲界は終わり、もはや存続不可能だ。


結局は相撲界の将来を誰も真剣に考えていないのではないだろうか。過去の栄光を引きずるがあまり将来像を仮にでもよいから描けない組織には未来もない。そういう当たり前の真理を今回のケースは教えてくれているのだと思う。


それにしても腑に落ちないのはマスコミの報道だ。今回の一件は明らかに「集団リンチ殺人事件」ではないか。気に食わない弟子(あるいは弟弟子)をビール瓶で殴る。ビール瓶というからには恐らくは親方は酔いに任せての蛮行であろう。さらには寄ってたかって金属バットまで使って殴る蹴るの暴行を加え、タバコの火まで押し付ける。挙句の果てにはこうしたリンチが発覚するのを恐れ、遺族の目の届かないところで火葬して証拠隠しを企む。極めて悪質だ。


同じようなことが仮にどこかの高校野球部で起こったとしたら、マスコミはそれこそ蜂の巣を突ついたような大騒ぎをするはずだ。気の毒にも亡くなられたのは本来なら高校生ぐらいのお子さんではないのか。といった報道はどこからも出てきていない(とりあえず今日の時点までで)。その裏にある事情も何となくわかるわけで、やはりマスコミにはあまり期待できないなあと思う次第である。



昨日のI/O

In:
佐藤裕久社長インタビュー
佐藤可士和の超整理術/佐藤可士和
Out:
Z会加藤社長インタビュー原稿


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