社内報は紙かウェブか


社内報といえば大企業が作るもの


そんなイメージがあるかもしれない。そもそも、なぜ社内報のようなメディアをわざわざ作るかといえば、社内のコミュニケーションを活性化するためというのが最大の理由だろう。逆にいえば社内報あるいはそれに類する仕掛けがないとコミュニケーションが活発にはならないというわけだ(必ずしもそうとは限らないけれど)。


ではなぜ同じ会社の社員同士で話が弾まないのかというと、相手のことがわからないからである。というか顔は見たことがあるけれども、どんな人だかさっぱりわからない人がたくさんいる。つまりそれぐらいたくさん社員がいる会社の話であり、要するに大企業ならではのコミュニケーションツールが社内報だった。


だからその内容はといえば、一時は「当社にはこんな社員がいます」と名物社員を紹介したり「私はこんな趣味を楽しんでいます」と趣味の紹介コーナーがあったり、あるいは社員旅行でどこそこへ行きましたとか、赤ちゃんが生まれたよとか結婚したよ、なんて記事が紙面のほとんどを占めていた。もちろん社長からのメッセージなども時には掲載されるわけだけれども、どちらかといえばそうした固い話よりも気楽に読めて、社内交流に少しでも役立てばといった主旨で編集されていたはずだ。古き良き時代のことである。


ところがバブルが弾けた頃から、そんな悠長なことはいってられなくなる。上からは徹底したコストカットが命じられるようになり、コストをかけるからには目に見える形で何らかの価値を生み出すことが絶対条件となってくる。社内報なんか廃刊にしてしまえば良いわけだが、大企業の場合には社内報の制作部門ができていたりする。そこに配属されている人たちは、社内報がなくなると困るわけだ。第三者的にみれば、社内報制作が仕事、なんてのは結構気楽でいいポジションじゃないかとも思えるわけだし。


そこで社内報の改革がブームとなった。コストをかけるからには、それなりのリターンをもたらす社内報にというわけで、経営層の考え方を手を変え品を変え、いろんな角度から分析して、それこそ現場で働く人たち一人ひとりにまで理解してもらうためのツールとなることで社内報が生き残りを図った。その手の社内報制作に数社、数年間関わってきたけれど、それはたいそうな仕事だった。


まず印刷会社がべったりと人を貼り付ける。それも営業が一人、企画が一人である。さらには印刷会社経由でデザイン事務所などのクリエイティブチームも付く。プランナーにライター、アートディレクターまでが参加する(私の場合はこのチームの一員として関わっていたわけだけれど)。たかだか社内報制作ぐらいでいくら大企業とはいえ、そんなにぜいたくな制作費がかけられるはずもない。持ち出し分は印刷会社が持つのである。


では印刷会社は、そこまでコストをかけて割が合うのか。これが合うのだ。そもそも社内報を外注してまで作る企業は、それなりの大企業である。そして社内報が経営企画寄りになってくると、その制作を通じていろんな情報を手に入れることができる。これが印刷会社にとっては大きなメリットとなる。また、社内報制作は社史制作に直結している。これも印刷会社が取りたい案件の一つであることは間違いない。もちろん社内報制作ではそれこそ社内のあちらこちらと密接なコンタクトを取ることが必要だ。これも印刷営業(というか正確にはSPツールやパッケージ制作営業というべきかもしれない)にとっては、極めて重要なパイプ作りとなる。


編集会議を最低三回ぐらいはやって、取材に出かけ、ラフを作ってはトップ層までのチェックを受けてと。これを毎月繰り返すのだから、社内報制作セクションのスタッフの方々は相当に忙しい。印刷会社の営業マンは会議こそそれなりに付き合うものの、あとは制作チームにお任せとなる。制作チームでは結局、ライターが一番使われる。といった次第で社内報制作に関わっていたときには、相当忙しくさせていただいた。


その社内報をイントラネットに載せてしまえ、いちいち印刷するのはやめてしまえという意見は、かなり早くから出ていた。ネットに上げるのなら、印刷に必要な諸々の工程を大幅にカットできる。しかもニュースをリアルタイムに取り上げることが可能だ。印刷コストが安くなるだけでなく、内容も充実する。だからといって社内報制作スタッフがお払い箱になる心配もない。三方めでたしのソリューションかと思われたが、結果的にはネット社内報は意外と早く廃れていった。その理由は、誰も見なかったからだ。


社内報はやっぱり、手元に「モノ」として届けられてこそ読まれるのである(それでも小難しい経営的な話が読まれていたとは思えないけれど)。カバンの中に放り込んだままでも、何かの機会に取り出してみてパラパラと気楽に読めそうなページを繰る。ついでにちょっと社長の話も読んでみるか、ぐらいで十分なのだ。いくらネットに上げてあるからいつでも見れる、といわれてもいつでも見れるのならいつか(それは永遠に来ないいつかなのだけれど)見たらいいやぐらいにしか思われない。ダメなのである。


そこで最終的には印刷物に戻す、あるいはネットと紙を併用するところが多かったはずだ。ヒューレット・パッカード社なんかでも、すでに数年前に社内報のネットシフトにチャレンジして、うまくいかなくて紙に戻したといった話をしていた。まだまだ広範囲な年齢層を抱える会社では、紙の方が親しみやすいという人が多いということなのだろう。


しかし、これからはたとえばケータイで見れるようなシステムだって必要になってくるんじゃないだろうか。あるいはどちらかといえばワンウェイ的な社内報ではなくて、たとえばブログを取り入れた双方向のコミュニケーション回路を持った社内報とか、さらにはYouTubeを上手く取り込んだ社内報、なんてのもありなんじゃないんだろうか。



昨日のI/O

In:
『よくわかる住宅リフォーム業界/八木正勝』
佐藤裕久氏インタビューメモ
Out:

メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「トレーサビリティーを意識する」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
 「京都企業、強さの秘密」
http://www.insightnow.jp/article/531

昨日の稽古: