KYを読めるか


「IYH、亀田一家の言い訳聞いて腹筋がぶっ壊れた」
「って? 今北産業
常考、わかんね?」
「ググれや」


というような言葉を「電脳スラング」というらしい(日経MJ新聞2007年10月12日)。このような言葉遣いにはとんと疎いので、使い方は間違っているかもしれない。一応、表したかった内容を記しておくと
「イヤッッオォォォオオォオウ! 亀田一家の言い訳聞いて、笑いすぎてお腹がいたくなるよりもはげしいぐらいに笑った」
「それってどういうこと? 今来た私にこれまでの話題の流れを3行で説明してください」
「常識的に考えてわからない?」
Googleで検索したら」
というぐらいの意味ですね。


ほかにも「ktkr」はキタコレ、「gkbr」はガクガクブルブル、「kwsk」は詳しくの略であるらしい。なんと難しいことよ。ある特定のグループの間にだけ通用する隠語のことを「ジャーゴン」ともいう。たとえばサラリーマンのことを「リーマン」と言ってみたり、1万円のことを「ツェーマン」といってみたり。あるいはデザイン系の業界だったら「サムネイル」「カンプ(今は使わないかも)」「バチカン」などの隠語を使うことがあった。


こうしたジャーゴンはもっと高尚な(本当にそうかどうかは知らないけれど)学問の世界でも使われたりする。いろんなところでいろんなジャーゴンが使われてきたし、これからも使われていくだろう。だからネットスラングも当然あっていい。そうした用語の中からやがては一般的な言葉として広く認知されるものが出てくる可能性もある。その意味ではスラングも立派に文化の一つである。


日経MJ紙に掲載されたインターネットスラング一覧を見ていると、一つはっきりした傾向があることがわかる。要するに、略字・略語を使うことにより言葉を短くするわけだ。空気読めをKYとするのなどはまさに典型的な例だろう。「Kuki Yome」の頭文字をとってKYである。アルファベットを使って略語表現することが多い中で異彩を放っているのが「今北産業」、これなどは秀逸といってもいいぐらいだ。


とはいえ実際に今北産業という名前の会社がいくつかあるだろうし(ちょっとググってみればすぐにわかるように、いくつもある)、その会社の関係者の方々としてはちょっと迷惑な話かもしれない。だって社名を言うだけで相手によっては笑われたりするリスクを抱えることになるかもしれないから。もちろんユーモアの効く人だったら、そこを逆手にとって「当社は今北産業といいます。ただし非常に多種多様な業務をしておりますので、事業内容をわずか三行でご説明することは難しいですが・・・」くらいのセールストークかまして、とりあえず相手に「!?」といったインパクトを与えることを考えるかもしれないけれど。


ジャーゴンの基本もやはり省略である。恐らく最近のネット系スラングがケータイでもやり取りされることを考えると、今後こうした言葉省略型ジャーゴンがどんどん増えていくことが予想される。それもケータイの機能を前提に考えるなら、もしかしたらアルファベット系の略語ジャーゴンが増えていくんじゃないだろうか。入力方法を切り替える必要があるけれども、その方が簡単だ。もし日本語で「常考」と入力しようと思えば、これはちょいと面倒だろうし。PCで普通に入力しようとしても「常考」を一発変換で出すことはできない。「じょうこう=jyoukou」と入力したら、普通は条項、乗降、上皇、情交あたりが選択肢に並ぶはずだ。


ただし、一つだけ気になることがある。


従来のスラングは基本的には専門用語などが省略・簡素化されたものがほとんどだ。つまり、感情表現を伴う言葉がジャーゴン化することはまずなかったといっていいだろう。これに対してネット系スラングは感情表現もある。専門用語については、その用語を使うグループ内であれば意味の行き違いは基本的に起こらない。しかし感情表現となるとどうなのだろうか。


スラングに込めた自分の感情が、正しく相手(というものを想定して使われているのかどうかも不明な部分があるが)に伝わるのかどうか。だからこそ「空気読め」という言葉が頻繁に使われるようになってきているのかもしれない。逆にスラングはそれが表現する意味を限定している分、誤解が生じる可能性が低いとも考えられる。だとすれば感情表現系のスラングが、直接人と対面しないネットの中で増えているということも、何となくわかるような気がする。


要するに感情表現の誤解からさまざまな問題が起こりがちな非対面系コミュニケーション=ネットでは、だからこそ感情表現についてはみんなの共通理解に支えられているスラングを使うことで、感情の行き違いによるトラブル発生を抑えようとする動きが水面下にあるのはないか。だとしたらネット系スラングが増えることはネットコミュニケーションの進化ともいえるだろう。


時にこうしたスラングと言えばやはりアメリカが本場だと思うのだけれど、アメリカでのネット系スラングはどうなっているのだろう。どなたかご存知の方がおられれば教えていただければうれしい。



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