なぜ簡単に盗むのか


「ビールを飲みたかったから」


それだけの理由で19歳の少年が15歳の仲間と一緒にコンビニで万引きし、見とがめて追いかけてきた店員さんを刺殺した。たぶん少年に殺意はなかったのだと思う(というか思いたい)。ただ、追いかけられてパニックになり、いざという時のために持っていたいナイフを突き出した。それが偶然、致命傷となってしまった。


とはいえ殺意がなかったから情状の余地があるとも思えない。ナイフで人を刺せば、最悪どうなるのか。それぐらいのことはわかっていたはずだ。そこで、もし自分が逃げるためだけにナイフを使うのであれば、致命傷を与える必要などまったくない。ナイフを持っていることを相手にわからせれば、それだけで十分ではないか。それでも相手がひるまなければ、足を狙うという選択肢もあったはずだ。それなら相手はもう追いかけてはこないだろうから。


いずれにしても犯罪行為を犯していることに変わりはないが、たかがビールを飲みたいといった欲求だけで人を殺してしまうよりは、無限大倍マシである。


しかし、今回の一件からはもっと深刻な問題が背後にあることがうかがえる。それは、この少年の超・短絡的な思考パターンである。「ビールが飲みたいから万引きしよう」という発想が、どうして彼の頭の中には生まれるのか。もちろん万引きは犯罪であり、犯してはならない行為だ。そんなことはわかっていると思う。にも関わらず「ビールが飲みたい」→「万引きしよう」となる。


深刻だと思うのは、このワンウェイ短絡発想の前項にはいろんなアイテムが入ることであり、さらにはこの考え方を共有している若者が多いのではないかということだ。


要するに「〜が欲しい」→「万引きしよう」と考える若者がいる。書店やゲームショップなどの被害状況アンケートによれば、最近の万引き者は中高生が多く、その目的は自分が読むためというのがだいたい半数になる。このアンケートに答えた書店の年間被害額は平均で200万円強にもなるようだ(→ http://www.meti.go.jp/policy/media_contents/downloadfiles/1024Manbiki_gaiyou.pdf)。


つまり、とりあえず本屋さんには「この本を読みたい」→「万引きしよう」と発想する中高生がたくさん集まってきていることになる。前掲のアンケートでは万引き一件あたりの被害額の平均が約1万円らしい。ということは本屋さん一軒あたり年間200回ぐらいの万引き事件があることになる。ほとんど毎日、ということだろう。とんでもない状況だと思う。


そもそも万引きがなぜいけないのか。それは誰かが創造した価値を、自分は何の対価も支払わずに搾取することになるからだ。ものすごく大げさにいえば、その行為は人間社会を根底から支えているルールを破ることになる。盗む行為そのものではなく、人と人の間で生きていくための唯一のルールを守れないことが問題なのだ。


精神論ではなく物理的な意味で人は一人では生きていけない。いろんな人が、いろんな形で提供してくれる価値を、対価を支払って享受することではじめて人の暮らしは成り立つ(無人島でたった一人、いわゆる文明の利器を何も使わずに生きている人がいるなら、その人を除く)。だから万引きは盗んだものの価格の多寡に関わらず犯すべからざるタブーである。


そのタブーを簡単に破る若者が増加傾向にあるということが、将来的にも極めて深刻な問題なのだ。なぜなら彼らは生きていくということの意味(それは価値と価値の交換だと思う)をまったく理解できていないことになるから。何かを手に入れたいなら、それを手に入れるための対価を相手に提供しなければならない。これが人間のもっとも根源的なルールの一つではないか。


このルールはこれまでは基本的に家庭で教えられてきたはずだ。たとえばお手伝いをしたら、何かご褒美をもらえるといった形で。ところが、そうしたお手伝いをする機会がどんどん減っていき、やがてはお手伝いなどをまったくすることがない家庭も増えてきているのだろう。一方でとりあえずみんなそこそこ経済的にゆとりができているから、子どもが何かを望めばたいていはほいほいと買い与えてしまう(このあたりはうちも反省しないといけない)。


そうした環境の中で育ってきた子どもは、何でも望めばそれだけで手に入ると考えてしまう可能性がある。子どもにモノを買い与えるためには、親が労働という対価を払ってお金という価値を手に入れているのだけれども、そこが子どもには伝わらない。


何かが欲しい、でもそれを手に入れるための対価を自分は持っていない。本来なら、だから働かなければならないと考えるのだけれど、働くのはイヤだったり、自分の働きぶりでは欲しいものが手に入らなかったりする。だから盗む。


本屋さんの話に戻れば、万引きされても相手をつかまえることはかなり難しいらしい。ということは万引きして、そのまま何も咎められずにいる若者がたくさんいるということになる。もし、彼らがそのまま人の親となったときに、自分の子どもにどんな教育をするのだろうか。空恐ろしい世の中になりはしないか。


子どもに対して万引きをしてはいけない、といった諭し方では通じないだろう。そもそも人が生きていくことは、誰かの創ってくれた価値と自分が創った価値の交換であることを、きちんと理解させること。この大原則をまず家庭で、そしてたぶん小学生ぐらいのレベルできちんと子どもたちに刷り込むことが必要だと思う。




昨日のI/O

In:
Out:

メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「印刷技術に目を付ける」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
 「なぜ、Z会は東大合格者数日本一なのか」
http://www.insightnow.jp/article/585

昨日の稽古:富雄中学校武道場

・補強運動
・基本稽古
・組手稽古
・受けの稽古