亀田一家の悲劇


もちろん亀田一家は大っ嫌いである


下品で知性のかけらも感じられなくて、謙譲や品格などとはほど遠い世界に住んでいる人たちである。そりゃ確かにそれなりには強いのだろう。もし自分が亀田大毅とリングで戦ったら間違いなくボコにされるはずである。悔しいけれど少なくとも私より強いことは認める。が、強さなどというのはあくまでも相対的なものである。その結果が図らずも今回の世界戦で露呈しただけのことだ。


判定であれだけの大差が付くということは、ボクシングを知っている人なら恐らく、戦う前から結果は見えていたんじゃないだろうか。そもそもがはっきりいって無謀なチャレンジだったのだ。にも関わらず、もしかしたら亀田一家だけは「勝てる」と思ってリングに上がったのかもしれない。その意味ではセコンドについた父・史郎氏をはじめ亀田一家はバカだと思う。


そこで今回の一件を(これまでの経緯も含めて)亀田一家が頭が良くないがために引き起こされた(正確には仕組まれた)事件と考えたらどうなるだろうか。


すなわち彼らは利用されたのである。わかりきっていることを今さら書くのもなんだけれど、私がいろいろな記事やコメントを読んだ限りでは「彼らが見せ物であった(彼らを道化師として利用し一儲け企んだテレビ局と広告代理店)」という論調がなかったので、ここに記しておく。


亀田一家はTBSと恐らくはその裏で画策している広告代理店によって操られていたピエロに過ぎないと思う。そうなるに至った筋書きは、たぶん次のような流れだったのだろう。


大阪におもしろいボクサーがいることを誰かが聞きつけた。母親に逃げられた一家で残された父親が孤軍奮闘、ボクシング一筋で自宅にジムまで作って息子三人を必死の思いで育てている。これだけですでにドラマ性を秘めた一家の話ができあがる。いかにもテレビネタになりそうなストーリーではないか。


しかも長男は幼い頃から空手を習っていたことも幸いして、そこそこには強い。もしかしたら努力次第では相当に伸びる可能性も秘めている。そこで代理店のプランナーがシナリオを組んだ。父子家庭でボクシングに打ち込み、父親がトレーナー役を勤めて世界に挑む。もちろん、これでも十分にドラマチックではある。が、ここからもうワンランク上までブレイクさせるためにはあと一つ、強烈なスパイスが欲しい。


そこでプランナーが実際の亀田一家に会って話を聞いてみた。プランナー氏はすぐに「こいつらは行ける」と踏んだに違いない。つまり「こいつら、あんまり賢くない。それなら徹底的にバカで凶暴な路線で売り出したらどうなんだ」と。幸か不幸か彼らの出身地は柄の悪いことで知られる大阪の下町である。父親の話し方も三兄弟のしゃべりも彼らが生まれ育った地域ではごくごくノーマルなのだが、それが全国区で放送された時のインパクトたるや相当なものになるはずだ。


と恐らくは裏でこんなシナリオが描かれた。これにテレビ局が乗った。そして、ある意味では極めてナイーブな亀田一家を代理店とテレビ局が共同で乗せに乗せた。プロジェクトがある程度進んだ段階で、スターさえ登場すれば人気が復活すると考えたボクシング協会もこの筋書きに一丁噛んだ。


みんなでよってたかって亀田一家を見せ物的な異形に仕立て上げたのである。恐らく一家はそうしたシナリオが裏で動いていることをまったく知らなかったのだろう。そもそもそんなことは疑いもしなかったとも考えられる。それぐらい初な(オバカともいえるが)人たちともいえる。その結果彼らは何も疑うことなく、自分たちの生き方が世の中に認めらえれていると受け止めた。だから、その素行の悪さをヒートアップさせる。


何しろあまり賢くない一家なのだ。とりあえず自分のまわりを取り囲んでいる人たちからおだて上げられれば増長するのは当たり前である。そして反省をしたり、現状をおかしいと疑ったりもしないが故に、その行動・言動はどんどんエスカレートする。ディープ大阪の片隅でごそごそやっていたころには、まさか自分が会えることになろうとは考えもしなかったスターから「亀田君、がんばれ」などと声をかけられる。その絶頂感、全能感の中で迎えたのが、今回の世界戦だったのだろう。


これも裏を深読みすれば、代理店プランナー氏の巧妙な戦略があったと考えてもおかしくはない。要するに彼ら裏方たちもとてつもなく増長し暴走を始めた亀田一家をコントロールできなくなってしまったのではないか。これ以上、野放しにしておくと自分たちに災いがふりかかる。ビビったのはスポンサーが降り始めた(大毅の世界戦の頃には亀田キャラを使ったCMはなくなっていたはずだ)テレビ局であり、ボクシング協会だろう。


だからあえて、規約を破ってまで父親、兄がセコンドに付くことを認めた(というか意図的にセコンドに付かせた)。もとよりボクサーとしての実力は、冷静に考えるなら誰が見ても内藤選手が明らかに上。そこで散々にやられたときに大毅が暴走する可能性は高い。仮に大毅が爆発しなくとも、親父と兄貴が何かやらかしてくれる。うまくいけば亀田一家を葬り去ることもできる。これがシナリオである。でなければTBSが、あのセコンドの暴言をそのまま放送するはずがないではないか。


うまく亀田一家を罠に引きずり込めれば兄の興毅だけはボクサーとしての資質があるから、どこかのジムが引き取っても良い。が、分を弁えずほとんどヤクザと化してしまった父親だけは何としても業界から追放しなければならない。というシナリオ通りにコトが運んだ。とまあ、これぐらいのことはメディア業界の方々は平気でやる。


自業自得とはいえ亀田一家、少し気の毒な気もする。彼らからすれば、今回のような激烈な亀田叩きはまったくの予想外で茫然自失、何が何だかわからない状態というのが正直なところなのだろう。そこで少し冷静に考え直すことができればまだ救いがあると思うけれど。



昨日のI/O

In:
『国家を斬る/佐藤優
Out:
肥前通運インタビューメモ


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