先見の明はMYから


世界第二位の経済大国は?


と問えば、そりゃ日本でしょうと答える。正解である。ただし、これまでのところはという制約条件が付く。


では2010年(もう3年後ですね)に同じ質問をすれば、答はどうなるか。確定とまでは言えないにせよ「中国」が正解となっている確率がかなり高い。さらに2020年の状況を問うならば、正解が「アメリカ」であってもちっともおかしくない(もちろん、そうならない可能性もかなりある)。


そんな未来を今から読んだ上で、どんなビジネス(=価値提供)を、どんな業種・業態を、どのエリアで、誰をターゲットに展開していくのかを考える。それが先見の明というものだろう。そんな先のことなんかわかるわけないでしょう、とはなから頭を使う努力を放棄するのは実に簡単なことだ。どうなるかわからない未来についてあれこれと企むよりも、まずは明日のご飯をどうするんだってことが先決じゃないのか、という反論もわかる。


たいていの人がそうだと思う。よほど強い意識と地頭の強さを持っていないと将来のことをきちんと読んでいくのは難しい。だが、ここで少し視点を変えてみよう。みんなができないことをやれれば、そのビジネスは成功する可能性が高い。当たり前だ。


その当たり前をきちんきちんとこなしてきて成長している会社がある。ゼイヴェルという。ケータイ通販で急成長している企業である。あるいは画期的なファッションイベント『東京ガールズコレクション』を仕掛けていると紹介した方がわかりやすいかもしれない。


ゼイヴェルがケータイ通販に目を付けたのは今から10年ぐらい前のことだ。当時のケータイは、まだモノクロで画面が小さくて通信速度も遅くて(つながらないエリアも結構あって)ケータイメールも今ほどには普及していなくて画像も不鮮明で、と『不』の塊みたいなツールだった。こんなものを使うのは、仕事で必要なビジネスパーソンだけだったのだ、確かに。


そんな状況でケータイで通販を企むなんて狂気の沙汰、あるいはそんなこと考えるのは「○カ」じゃないの的扱いを受けたことだと思う、たぶん。それが世間一般的な見方である。


だからケータイ通販なんて『普通の』ビジネスパーソンなら誰も考えもしないわけだ。しかし、そこで先見の明を働かせるとどうなるか。KYではなくMYである。すなわち空気ではなく、マクロの流れを読むわけだ。


早い話が2000年時点で読む5年先のケータイの世界である。画面はカラーになっている、しかも以前と比べればモニターサイズも倍ぐらいの大きさだ。通信速度は何十倍にも速くなっている。画像はくっきり鮮明、動画も見ることができる。もしケータイの未来がそうなるとわかっていたならどうだろうか。


そのとき人の暮らしの中でケータイがどんなポジションを占めているか。ここまで想像力を広げられるかどうかがミソである。


今やケータイは完全に24/365/30メディアとなった。一年中24時間、30センチ以内にあるコミュニケーションツール、夜寝るときも手の届くところにケータイを置いている方がたくさんいらっしゃるのではないか。こんなものが人類の歴史上存在したことはかつてない。


しかもケータイの料金はどうか。パケット定額制ならコストの負担も気にならない。つなぎっ放しで使う人が多数派だろう。それにいまではケータイだけで決済もできてしまう。高速通信が普及した結果、検索だってストレスを感じずに可能だ。となればこれほど通販にフィットしたメディアはないではないか。


そこまで読めたなら、あとは自分の先見の明に賭けるしかない。ただし、である。賭けるといっても戦略的に進めることが勝つための秘訣である。将来を予想する力に長けた人が犯しやすい間違いに、自分の先見力をひけらかすことがある。


気持ちはわかる。「絶対に未来はこうなる」と確信できているのだ、それを人に言ってまわり、自らの先見性を認めてもらいたいのは自然な感情だ。しかしビジネスで勝つためには、感情は絶対に排除しなければならない。冷静に戦略を組み立て、冷徹に実行していく力が必要なのだ。


ゼイヴェルがまさにその好例である。同社はケータイ通販の時代がやがて来ることを予測しながら、そのときに自社がどんなセグメントマーケットで、どんなターゲットから、どんな企業(正確にいうとケータイサイト)として認知されるべきか戦略を立て、そうなるべくアクションを地道にこなしてきた。ゼイヴェルが運営するケータイサイト『ガールズウォーカー』のコンセプトは、ケータイのディズニーランドである。


すなわち、このサイトに行けば何か楽しいことがあるとF1層に徹底的にアピールした。そのためには先行投資とばかりに売りのサイトではなく、楽しいコンテンツをこれでもか、と揃えたサイト作りに集中した。その時点で通販をメインに打ち出しても、通信速度、画像の大きさ・鮮明さ、通信コストなどが通販にはフィットしていなかったのだ。


だから3年先ぐらい未来に、さまざまな条件がクリアされケータイが通販のためのツールとして最適化されるまでは、とにかくターゲットである若い女性を集めることに全力を集中した。その結果がゼイヴェルの現在の姿である。楽しいサイトには人は引き寄せられる。人が集まってくる所に面白いもの、楽しいもの、キレイなもの、便利なものがあれば必ず売れる。ディズニーランドの仕掛けとまったく同じだ。


ではケータイの5年後はどうなっているのだろうか? そのとき、どんなビジネスモデルが考えるだろうか? なかなかにおもしろい思考実験だと思う。




昨日のI/O

In:
INAXメンテナンス社インタビュー
Out:
肥前通運インタビュー記事


メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「マクロの動きを読め」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
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□InsightNow最新エントリー
 「セールスを上手く進める6つのポイント」
http://www.insightnow.jp/article/640

昨日の稽古: