船場吉兆事件が引き起こす法改正


前年対比75%減


工場が建たない。9月の工場の建築着工床面積は前年同月比75%減、40万平方メートルに落ち込んだ(日経産業新聞2007年11月27日付け1面)。なぜ、こんなことになっているのかといえば、建築確認審査に時間がかかっているからだ。


では、なぜ建築確認審査に(これまでに比べて)時間がかかっているかといえば、建築基準法が6月に改正されたからである。そこで、なぜ(しつこいかもしれないけれど、トヨタは『なぜ』を5回繰り返せっていうでしょう)建築基準法が改正されたかといえば、耐震偽装事件が起こったからである。さらに、なぜ耐震偽装事件が起こったかといえば・・・、この先はちょっと難しい。


答を姉歯氏の個人的な問題と結論づけてしまえば、話はわかりやすくなるけれども恐らくことの本質を見失うだろう。姉歯氏に偽装を強制した(とされる)ゼネコンやデベロッパーの問題だと結論づけるのも同じことだ。これはまったく個人的な推測に過ぎないけれども、耐震偽装問題の闇はもっと深く濃いと思う。ことは姉歯氏個人の問題ではなく、あるいは木村建設ヒューザーだけの問題にもとどまらないのではないか。


仮にこの推測が当たっているとするなら、なぜそんな悪事が大規模にまかり通っていたのかこそが問われるべきである。答はいくつも考えられるが、最終的には教育の問題に行き着くのだと思う。


少し話がそれた。


改正建築基準法はいま住宅業界、建設業界を直撃している。新築住宅着工数が激減していることは、このところさまざまなマスコミでも取り上げられているのでご存知の方も多いだろう。ところが法改正の影響は意外なところにも広がっていたというわけだ。


新しい工場が建たないということは、その工場で使う機械を入れることもできないことになる。そこで冒頭の記事に戻れば機械受注も明らかに前期比でマイナス傾向が出ているらしい。ポイントはマーケティングでよくいわれるマクロ分析である。法律が改正されると実にさまざまな分野に、直接的には関係がなさそうなところにまで影響は及ぶのである。


こうした大事件(世間の耳目を集める事件といった方がわかりやすいかもしれない)の発生→法改正→マーケットへの影響、といった事例は建築基準法改正の少し前にも強烈なものがあった。道路交通法の改正である。


博多で泥酔したドライバーが引き起こした悲惨な事故をキッカケに飲酒運転に対するある種の社会的な合意形成がなされ、その結果飲酒運転に対する厳罰化が決まった。その結果、何が起こったか。


ロードサイド型飲食店(特に居酒屋)の業績が劇的に悪化した。これまでなら、「ちょっとぐらい飲んでも大丈夫だろう、家までクルマで10分もかからないんだから」ぐらいに考えていたドライバーたちが、一斉にそうした店に出かけなくなった。当然である。飲酒運転で取り締まりに引っ掛かれば、罰金が50万円も取られるのだ。しかも同乗者も同罪と見做され、ドライバーほどではないにせよ高額の罰金を科せられる。


そんなリスクを冒してまで出かけようと考える人は、法改正前に比べれば大幅に減っているはずだ。感覚的には8割減ぐらいだと思う。これではお店は商売上がったりである。そこでファミリー向け食事をメインにと業態転換するところがあれば、送迎サービスや代行運転サービスをアピールして生き残りを図っているところもある。


いずれにしてもビジネス環境が法改正により大きく変わり、そこで新たなビジネスチャンスが生まれていることだけは間違いないだろう。


となると、これから注目しておくべきは食品関係の法改正ではないだろうか。話を今年に限っても、ミートホープ社白い恋人赤福餅に続いて「あの」船場吉兆と食品偽装が引きも切らずに起こった。特に船場吉兆のあからさまに悪質な偽装がトドメを刺したと思う。


つまり、それぐらい食品を管理する現行法がザルであることが露呈したのだ。船場吉兆に比べれば、まだミートホープ社の方が知恵を使っているとさえいえる。何しろ船場吉兆の場合は偽装工作をまったく隠そうともしていないのだから。これが何を表すのか。つまりは船場吉兆のケースほど幼稚な(だから悪質だともいえるのだが)やり方でもスルーできるぐらいに現在の法律は機能していないということだ。


吉兆のやり方は「まさか、あの吉兆が嘘をつくはずがない」という消費者の心理を逆手に取っただけである。手の込んだ偽装工作など何もしていない。それでも偽装は見破られなかった。誠に問題の根は深く広いと言わざるを得ないではないか。


それでなくとも『食の安全』に対する国民の関心は極めて高いのだ。とあれば今後、食品関連の法改正が行なわれる可能性はかなり高いと思う。そして法改正が現実のものとなったときに、どこにどんな影響がもたらされるのか。その影響がどんなビジネスチャンスにつながるのか。今から考えておいても決して損はないと思う。



昨日のI/O

In:
INAXメンテナンス社インタビュー
Out:
肥前通運インタビュー記事


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「パートナーシップで法改正に対応」
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□InsightNow最新エントリー
「エンドユーザー・ファーストの大切さ」
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昨日の稽古: