目安は200字の問題点


ひと息は200字が常識になってるの


香山リカ氏『なぜ日本人は劣化したか』の中にこんな文章がある。一応、文章を書いて暮らしを立てている身としては、ちょっと深刻な内容が続く。

昔はライターさんにひとつのテーマについてだいたい八〇〇字を目安に原稿を依頼していたんだけどね。その頃(註:15年前)は、人がひと息で読めるのは八〇〇字、と言われていたから。
それが今は、”ひと息は二百字”が常識になってるの。それ以上長くなると、読者から『読みにくい』『何を言っているか、わからない』とクレームが来てたいへん。
香山リカ『なぜ日本人は劣化したか』講談社現代新書、2007年、16ページ)


おお〜、そうだったのか。知らなかった。と、ここまでですでに300字あまりある。ということは、すでにこのエントリーについて「うざいなあ、何をぐちゃぐちゃ言うとんねん」と感じておられる方もいらっしゃるということか。


というか正確には、そうしたひと息200字派の方たちがそもそも、私のブログなぞを読みにくるはずもないということだろう。ふ〜む、なるほどね。ここまでで450字ぐらいになるな。だから、ここで以上終わり、としても十分に長過ぎる文章として見向きもされない可能性が高いわけだ。じゃ、とりあえず終了。


・・・してしまったら、一体何を言いたいのかがさっぱりわからんじゃないか。野口悠紀雄先生は、文章を長さで分類すれば1500字(通常短文と呼ばれるもの)、15,000字(本格的な論文などの長文)、15万字(本)に分けられると書いておられた(野口悠紀雄『「超」文章法』中公新書、2002年、87ページ)。最低でも1500字ぐらいの量がないと、言いたいこと(テーマ)、その説明、理由などをひとまとめにして表現するのは難しいのだ。


逆にいえば200字限定で表現できるのは何だろうか。香山リカ氏の本には次のように書かれている。

そんな背景とか理由なんて、どうでもいいの。もし書いたとしても、誰も理解しようとしないし。むずかしいことなんて、誰も考えたくないし、興味もないの(香山リカ、前掲書、17ページ)。

だから結論というか、情報を羅列するだけでよいのだ。


みんながみんな、どんな媒体に対しても、一様に200字限定でなければ読まぬ(読めぬ)と思っているとは考えられない。しかし、である。そうした傾向がまったくない、と否定することもできないような気がする。


たとえば、何か事件が起こったときの一律的な反応が示しているものは何だろうか。テレビが報道したから、あるいは新聞に書いてあったから(視聴者・読者が得るのは基本的に結果情報と、あくまでもマスコミサイドの解説だけだ)という根拠だけで、ものごとを判断する人が増えていはしないか。


もちろん姉歯氏は悪いし、船場吉兆も良くないし、マクドだっていい加減なことをしているわけで、さらに守屋さんなんてのも論外ではある。が、それでもおのおのに事情や理由があったはずだ。それを「けしからん」のひと言で片付けて済ませてよいのかという話である。恐いのは「けしからん」に伴う爽快感である。すなわち反論のしようのない悪事に対して「けしからん!」と切って捨てることには確かにある種の爽快感がある。これはクセになる。


しかし爽快感を感じることが悪いとはいわないが、爽快感だけに浸っていても困るんじゃないか。なぜなら、なぜ、そうした悪いことが行なわれたのかを一応は(本当は「きちんと」と言いたいところだけれど)考えておかないと、同じような悪事の再発を防ぐことはできない。だから面倒くさくても、理由を推測し、良くないことが現実に起こるに至ったプロセスを追ってみることが必要なのだと思う。


そして、そうした思考の成果を文章にして表わす。頭の中でもやもやと考えていた内容を、他人が読んでもわかるような文章としていったん自分の外に出すことで、自分自身がその文章を少しは客観的に見返すことができる。書き出された文章は、自分の分身でありながら、頭の中にあった思考とはまた別の次元にあるものだ。そこで生まれる距離感が、自分の思考を客体化し、さらに考えが深まったり、誤りに気付いたりする。


というような面倒くさいことを好まない人がどんどん増えているということなのかもしれないなあ(ここまでで1700字ぐらい)。


とりあえずこのブログではこれまで、最低1500字から長くて2000字ぐらいを目安に書いてきたんだけれど、やっぱりそれでは長過ぎるのだろうか。悩ましいところだ。




昨日のI/O

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『なぜ日本人劣化したか/香山リカ
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