先生と生徒のバランス


先日、小学校時代の恩師の家にお参りに行ってきた


恩師は二ヶ月ほど前に亡くなられた。そこで小学校時代の同窓生が集まってご焼香にうかがったという次第。35年前の卒業生が7人揃った。先生の位牌の前で昔話をすることしばし、思い出していたのは小学校時代の学校の様子だ。


あの頃は子どもがたくさんいた。一クラスにだいたい40人ぐらいいた。それを先生が一人で面倒を見る。小学校6年の時の恩師は40代半ば、ちょうど今の私と同じぐらいの歳だったはずだ。想い出の中の先生と自分を比べてみると、いかに自分が幼稚かを改めて思い知らされる。


ともかく35年前には一人の先生が40人ぐらいの子どもたち(それも小学校6年生といえば生意気盛りではないか)を普通に面倒見てくれていたのだ。これまでに何回か同窓会をしてみて顔を合わす昔の友だちはみんな、同じように先生にかわいがってもらったという。


そりゃ確かに中には勉強のできない子もいたし、今から思えばどちらかといえば貧しい暮らしをしていた友だちもいた。でも、学級崩壊などはまったくなかった。イジメもなかった。勉強のできない子でも運動神経の良い奴にはきちんと活躍の場を用意し、あるいは昆虫採集や釣りなどその子に合った特技を先生がうまく引き出してくれていたように思う。今にして思えば実にきめ細かな心配りをされていたのだと推察する。


もちろん私の恩師の器の大きさがあればこそ、という面は否めない。とはいえ他の学級も同じような人数配分であり、少なくとも自分たちの学年で学級崩壊や特に素行の悪い生徒がいたという話も聞かない。だから、あの頃(35年前)は教師一人で40人ぐらいの小学生を相手にできていたのだ。


そして時は流れ、いま息子が通っている小学校では一クラスの定員がだいたい30人となっている。それぐらい生徒の数が少なくても学級崩壊の起こっているクラスがある。しかも先生は完全に一人ではない。教科によっては応援の先生がいたりする。


おそらくは一人の先生で面倒を見ることのできる子どもの数が減ってきているのだろう。だから公立中小の教員増員についてのアンケートをとれば、回答者の73%が賛成と答えている(日本経済新聞2007年12月3日付け朝刊13面)。


確かに学力や体力の低下(昨日お話を伺った香山リカさんは、低下といわず「劣化」とおっしゃっていた)、規範意識の低下などいまの子どもたちはおそらく、35年前の自分たちとは相当に違う。違いはいろいろあるのだろうが、以前と決定的に異なるのが子どもたちのコミュニケーション能力ではないだろうか。


そもそもコミュニケーション能力とは、まったく話の通じない相手と出会ったときにまず相手のことを理解し、その上で自分を理解させるために必須の力である。この能力があるからこそ、人は社会の中で生きていくことができる。


この能力は、最初は家族との間で養われ成長するに従ってまずは同年代の子どもたちとの間、さらには歳の異なる子どもたちや近くにいる大人たちとの間で養われてきた。少なくとも自分が子どもの頃はそうだった。とにかく遊ぶといえば、たいていは小学校2年生ぐらいから6年生、時には中学生のお兄ちゃんもまざってみんなで三角ベースをしたり、缶蹴りをしたり、ベーゴマ鬼をしたりといった案配。遊びの中で自然にいろんな年代の子どもと話をし、時にはよその(エリアの)子とも話をするようになった。


ところが、いつの頃からか子どもたちは同じ年の子どもとしか遊ばなくなる。その理由は以前にも書いたことがあるように、まず遊び場が失われ、遊ぶ時間が失われ、いろんな学年の子どもが集まって遊ぶ機会が失われたからだろう。こうして家の外での遊びが変質するのとタイミングを合わせるようにゲームが登場してきた。


ゲームで遊んでいる限り、その時間と空間を共有できるのはせいぜい2、3人にとどまる。しかもゲームは基本的に個人作業だ。もちろん会話がないわけではないが、それは本来の意味でのコミュニケーションとは少し違う。


ゲームに比べればたとえば外で何人かでチームを組んで「泥縄」などをしているときには、相手チームに勝つためにいろいろと話し合わなければならない。基本的には上級生、力の強いものが命令する形にはなるけれども、これもコミュニケーションのバリエーションと考えられるだろう。


つまり、香山リカさんも指摘されているように(『なぜ日本人は劣化したのか』香山リカ講談社現代新書)いまの子どもたちは、さまざまな要因が重なった結果コミュニケーション能力が低下(劣化?)しているのだと思う。そのために先生が一人の子どもとコミュニケートするのに時間がかかり、結果的に一人の先生が相手をできる子どもの数が限られてくる。というのが、教育の現場の問題点ではないだろうか。


もちろん、もしかしたら先生サイドでも以前に比べればコミュニケーションスキルの低い先生が増えていることも考えられる。となると、より事態は深刻だ。それでも先生はすごいと思う。私がやっている寺子屋では、マンツーマン(それぞれすでに幼稚園年中時代からだから7年の付き合いになるのにも関わらず)が限界。一人で一時に二人以上の子どもの相手をきちんとしようなんて、相当な力業だと思う。



昨日のI/O

In:
香山リカ氏インタビュー
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昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋