日本の学力はなぜ後退したのか


数学6位→10位、読解力14位→15位、科学的応用力2位→6位


経済協力開発機構が2006年に実施した学習到達度調査の結果だ(対象57カ国・地域の15歳、約40万人・日本経済新聞2007年12月5日朝刊1面)。目を覆うばかりに、とまでひどくはないが数学的応用力、読解力ともに2000年から落ち続けていることは気にしてよい。


もちろん順位の話だから、他国の学力レベルが上がれば相対的に日本の順位が落ちるわけだ。とはいえこの調査で問われるのは「単なる知識や計算能力ではなく、実生活のさまざまな場面で課題を解決する力(前掲紙、2面社説)」だという。こうなってくると話は少し深刻になる。


日経の社説では学力低下の原因を「ゆとり教育」と「科学に対する興味や関心の低下」に求めている。日経に楯突くのは恐れ多いことだけれども、この考え方にはちょっと疑問を感じる。


確か内田先生は、子どもの教育においてはある時期、知識を詰め込むことが必要だとどこかに書いておられた(はずだ)。論理的に物事を考えるためには、やはりそれなりの知識が必要である。そして集中的に知識を詰め込むことによって、頭の中では詰め込まれた知識がうまく整理されて行く。この整理作業がおそらく論理的に物事を考えるためのひとつの訓練になるのだと思う。


ここでいう「詰め込み教育」といえば、何でも暗記することでは決してない。知識をどんどん頭の中に詰め込むことこそが、本来の詰め込み教育である。単に暗記しただけの知識は、いくら詰め込まれてもすぐにどこかに消えてしまうだろう。詰め込んだ知識はきちんと理解され、今風にいうなら頭の中で自分なりのタギングを施されることで、次にその知識が必要になったときにうまく引き出すことができるのだ。


日経の記事は社会面にも続いていて、そこでは調査結果が上位だったフィンランドと香港を「幼稚園から補習」「脱・詰め込み教育」と表現している。しかし成績のふるわない子どもらに対して幼稚園から補習クラスを設けるフィンランドは、ある意味「詰め込み教育」と言えなくもない。また脱・詰め込みとされた香港にしても、科学で実験を増やしたりSF小説を書かせたりと、これまた詰め込み的側面を持っているんじゃないだろうか。


要するに問題は詰め込みかどうかではなく、きちんと考えさせるような教育をしているかどうかなのだと思う。


以前から紹介しているフィンランドの国語の教科書(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20060213/1139782428)には、問いはたくさん書かれているけれども答はひとつも載っていない。なぜなら、授業では答えそのものではなく、その答がどうやって導き出されたのかという理由の方が重視されるからだ。この考え方は徹底されていて、たとえ選択問題であっても自分がある解答を選択したのならその理由を適切に答えなければならない。


大切なのは結果よりプロセスなのだ。こういう教育を受けているフィンランドの子どもたちが「実生活の様々な場面で課題を解決する力」に優れているのは当然ではないか。なぜなら、現実の問題には絶対正解などないことがほとんどだから。だらら現実問題を解決するときその解決策の妥当性は、解決策自体が正しいか間違っているかではなく、その解決策がどのようなプロセスで導き出されたかによって判断されるべきだろう。


現実問題に関しては答はいくつもあるのだ。もう一つ突っ込んでおくなら、そもそも解決策を考えるためには、まず問題そのものを自分なりに正しく定義する必要がある。もしかしたら、この問題提起能力こそが日本の教育にいちばん欠けている分野なのかもしれない。


問題がキチンと書かれていれば、それに対する答は一つだと安心して取り組める。ところが問題そのものをまず自分で考えないことには、答など出せっこない状況に放り込まれると、途端に途方に暮れてしまう。けれども実生活の問題は、たいてい何が本当の問題なのかがすぐには見えないことが多い。問題提起能力がなければ解決することは難しい。


5+7=? といった単純な問題はいっぱい練習するけれども
●(+/-/×/÷)▲=12 という問題自体を自分で作り出すような訓練はほとんどやらない


このあたりに日本の教育の根本的な問題点があるのではないだろうか。そこで話はループして詰め込み教育の是非に戻るわけだけれども「そもそも何が問題なのだ?」といった思考を突き詰めていくためには、いろんな知識を持っていた方が手がかりがたくさんあってよいと思う。違うかな。



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