ユニ・チャーム強さの秘密


ランキング商品15品中10品がユニ・チャーム


大人用紙おむつ・ライナーの商品別ランキングでユニ・チャームが圧倒的な強さを発揮している(日経MJ新聞2008年1月7日付け2面)。すごいなあと思うと同時に、ユニ・チャームは勝つべくして勝ったのだとも思う。なぜユニ・チャームがここまで独り勝ちしたのかを少し考えてみたい。


同社が『ライフリー リハビリ用パンツ』を発売したのが1995年のこと、大人用おむつにベビー用のパンツ技術を応用した商品は、当時としては画期的なものだった。この商品のキャッチフレーズが「寝たきりゼロを目指して」である。もちろん画期的とはいえ、世間一般からすればまったく知られていない商品でもあった。


今から13年前は、まだ「いずれ近いうちに日本は高齢化に襲われる」といった予測段階にとどまっていたのだ。つまり高齢化が起こるのは当時からすれば「これから先」のことである。だからライフリーの「寝たきりゼロを目指して」というキャッチフレーズも、それほど多くの人には届かなかった。


少し補足しておくと、当時ある衛生用品メーカーのマーケティングに関わっていた。そこがやはり大人用パンツタイプの紙オムツを市場導入することになり、そのいわゆる4P戦略作成に携わらせてもらった。だからだいたいの内幕を知っていることもあり、余計にユニ・チャームがすごいなあと思う次第。


というのも当時は、この大人用紙おむつマーケットは有力4社がほぼシェアを押さえており、ユニ・チャームはトップもしくは二番手だった。私が関わっていたメーカーが四番手であり、まだまだ三番手から上を狙えるぐらいの競争状況にあった。だからこそパンツタイプでの新製品導入にはかなりな力が入ったわけだ。


当時からこのパンツタイプの大人用紙おむつにとっての最大の課題は、心理的障壁をいかに取り除くかという一点に絞られていた。良い歳をした高齢者が、こんなものをはくかどうか、である。


誠に気の毒な話だけれど頭がボケてしまった方は、おむつがあてがわれることになる。おむつとこの手のパンツタイプではコストに相当な開きがあるから、心理的障害のない方たちにはおむつとなるわけだ。問題は頭はしっかりしているけれども、身体機能が衰えてしまった(故に尿漏れや失禁してしまう)方たちへのケアである。


以前はおむつ(もしくは女性の場合は尿パッド)で対応するしかなかった。が、頭がボケていない方におむつをあてがってしまうと、一気にボケるリスクが専門家から指摘されていた。「とうとう自分はおむつをしなければならないのか」という落胆が、生きる気力を殺いでしまうのだ。


そのために開発されたのが、このパンツ型である。私が関わっていたメーカーをはじめ各社が心理的障壁を「短期的に」いかに取り払うかに
マーケティングを絞り込んでいたのに対して、ユニ・チャームは少し長期的な視野も持っていた。なぜなら同社には確かな経験知があったからだ。生理用ナプキンである。


約45年ほど前に薬局の片隅でこそこそと売られていた生理用品が、いずれはアメリカのようにスーパーマーケットで山積みされるようになると信じた高原慶一朗社長(当時)は、日本での製造・販売に着手する。その結果どうなったか。今ではゴールデンタイムでも生理用品のCMが堂々と放映されている。世の中から必要とされるものを信念に基づいて提供すれば、少々時間はかかっても必ず受け入れられる。そうした成功体験をユニ・チャームは財産として持っていたのだ。


だから大人用パンツタイプ紙おむつも、高齢者人口が増えるに連れて必ず市場は拡大すると踏んでいたのだろう。そこで他社との違いとなったのが商品名「リハビリパンツ」とそのキャッチフレーズ「寝たきりゼロを目指して」に込められたポリシーである。


本来ならこの商品は「リハビリがうまくいけば不要」になる。つまり、自社の収益だけを考えるなら本当は、ユーザーにはずっとリハビリ状態でいてもらった方が売上は上がる。これはあくまでも収益ベースでの考え方である。しかし、同社のミッションは社是に「我が社は、市場と顧客に対し、常に第一級の商品とサービスを創造し、日本及び海外市場に広く提供することによって、人類の豊かな生活の実現に寄与する」と記されている。


豊かな生活とは高齢者にとっては、可能な限り自力で活動すること。そのために必要なのはリハビリをサポートする製品である。そうして思いが込められた『リハビリパンツ』だからこそ、いつの間にかいささか近視眼的なマーケティング戦術しか展開できなかった他社とは圧倒的な差をつけるに至ったのだろう。


その過程では高齢者の排泄ケアを研究する施設を作ったり、あるいは一般ルートではなく施設ルートを地道に回って情報収集に務め得た情報を製品開発に活かすといった活動も行っている(はずだ)。この間に高齢者人口が増え(2005年は2000年より約17%増)、軽失禁対策商品の使用率も1996年の2.2%から2005年には26%へとジャンプアップしている。


10年以上前におそらくはこうした状況変化も読んだ上で活動したいたのがユニ・チャームなのだろう。その意味ではやはり確定した未来(=人口推移が直接影響する)市場に関わるビジネスは、最低でも10年スパンの視点を持つ必要があるのだと強く思う。


<余談>
大人用パンツタイプ紙おむつのコピーを書くために、一日これをはいて過ごしたことがある。たしかにちょっとごわごわするけれども、慣れるとそれほどの違和感はない。それに何よりトイレに行かなくてもよいのが素晴らしいと思った。実際に小の方を試してみると(コピーを書くには実証して納得する必要があるから)、これが大した吸収力である。確か3回以上繰り返すと漏れる恐れがあるという話だったから一回分しか試さなかったけれど、それぐらいなら十分に使えると思いました。



昨日のI/O

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『営業の「聴く技術」SPIN/ケンブリッジ・リサーチ研究所』
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□InsightNow最新エントリー
「誤解され続けてきた和の精神」
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昨日の稽古:

・突きの基本稽古