怪物・佐藤優

私のマルクス

私のマルクス



年末年始は、佐藤優だった


『私のマルクス』をじっくりと読んでいた。この学生時代の佐藤氏の自伝にはカバーの折り返しに次のように書かれている。「この時代に私は本気で本を読み、他人と話し、考えた」。同じ時代、私はマンガを読み、他人と遊び、考えなかった。えらい違いや。


ときに佐藤氏についてのエントリーは、これで四回目。いま、ものすごく気になる人物なのだ。最初は外務省のラスプーチンなるあやしげな名前通りの人物なんだろう、ぐらいにしか思っていなかった。というか正直なところ、ほとんど興味さえ持たなかった。鈴木宗男氏とつるんでろくでもないことをしたノンキャリアの外交官といったマスコミの報道を鵜呑みにしていたわけだ。


が『国家の罠』を読んで、氏に対する見方は百八十度変わる。この人は、今どき珍しくきちんとした自分の考えを、極めて的確かつわかりやすい日本語で表現できる人だ。とにかく読んでいておもしろいのだ。とても普通の外交官とは思えない文章力である。この一冊と出会ってから佐藤ワールドに引きずり込まれることになった。


それ以降、何冊か著作を読み佐藤氏について知れば知るほど、その怪物ぶりが際立ってくる。何しろ刑務所の独房を「理想の勉強部屋」と考えてしまうような人物である。まさに知の怪物と呼ぶにふさわしいではないか。


その佐藤氏、実は私と同い年である。しかも同じ時期に京都の大学に通っていた。氏は同志社、私は京都。とはいえ学生時代に河原町通りより西へ行くことはほとんどなかったので、もしかしたらニアミス、というようなこともなかったはずだ。


もとより佐藤氏は学問一筋、こちらは遊び一筋の学生生活送っていた故、同じ時期に同じ京都の地に、それも直線距離にして2キロも離れていない場所にいたといっても何の接点もない。わずかに共通することがあるとすれば、同じようにがぶがぶと酒を飲んだことぐらいだろう。とはいえ飲み方もまったく違う。こちらはだいたい麻雀のあと、誰かの下宿になだれ込み、一晩中レコードを聞きながらうだうだとバカ話をして酔いつぶれるまで飲む。氏は学生運動に身を投じている友人とマルクスについて語らいながら飲む。


同じ時代の空気を吸ってはいたが、その質には相当な違いがあったことだろう。吸っていた空気の違い、すなわち過ごしていた時間の質の違いが、いまのポジションの違いとなっているわけだ(といって、自分と佐藤氏をくらべるのも烏滸がましいけれど)。


その佐藤氏が、昨年暮れぐらいから爆発している。『私のマルクス』をふくめて立て続けに本を出している。『国家論』『インテリジェンス人間論』『国家の謀略』などで、とうていすべてを追いきれるわけもなく、とりあえずその中の一冊を読んだに過ぎない。もちろん『私のマルクス』も実に精緻に書かれている。そして文章は極めてクリア、かつわかりやすい。よくも、これほどのレベルの高い本を次々に書けるなと、その知的タフネスぶりにはひれ伏すしかない。


心の師を貶めるつもりはまったくないが、知的硬質さという意味では内田樹先生に勝るとも劣らぬクオリティをキープしている。


氏の活躍の場は単行本だけでもない。週刊誌の人生(?)相談みたいなコーナーにも書いている。これがまた、常人とはまったく異なる視点でありながら、実にすっと腹に落ちる回答となっているのだ。恐るべしである。


このような知の怪物的人物が同時代人と存在することは、とても幸運である。これこそまさに運であり、望んで得られるものではない。


とうに人生の折り返し点を過ぎてしまった自分ではあるけれども、それでも佐藤氏の本を読むたびに、残された生きることのできる時間のかけがえのなさを骨身にしみて確認させてくれる。同世代人として、これからの自分の生き方に貴重な道しるべを示してくれる人物としてほぼ全幅の信頼を置くこともできる。そしてまったくレベルもジャンルも違うとはいえ、同じように書くことを生業としている身として、極めて質の高い見本ともなっている。


自分が読んだ佐藤氏の本を並べてみると、この人がいかにスケールの大きな考え方をしているかがよくわかる。今どき、国家のあり方についてこれほどまでに真剣に、かつリアルに日本の行く末を考え、しかもそれを文章化できる人物など政治家にもいない。と、ここで思いついたのが佐藤氏を日本国首相にすることだ。誰かが、そんな突拍子もないことを言い出さないだろうか。もしも、そんなことになったなら絶対に全力で応援するのだけれど。



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