ライフログはビジネスになるか


人の一生3テラバイト


ライフログのお話。ライフログとは個人の活動のほぼすべてをデジタルデータ化したもののこと。すなわち

ある人物が見たもの、行った場所、感じたことまですべてを記録しデータベース化すること
http://wiredvision.jp/archives/200307/2003073103.html

である。何とも壮大というか、面倒くさいというか。そんなことが果たしてできるのか?


といえば、実際に研究している人がいる。マイクロソフトの研究員ゴードン・ベル氏だ。ミスター・ゴードン「ザ・マイライフビッツ」氏はいつもデジタルカメラ(自動シャッター付き)とICレコーダーを首からかけて、生活のすべてを記録しているそうだ。ちなみにデジカメの自動シャッターは30秒(!)に一度切られるという。ということは1分で2回、1時間で120回、1日で(寝ている間も切るんだろうから)2880カットも撮影されることになる。


記録されたデータは氏の勤めるマイクロソフト研究所内のHDDに保存される。もちろんデータはカメラやICレコーダーに記録されたものだけではない。やり取りしたメールや見たサイトは言うまでもなく、読んだ雑誌や小説までもスキャンしてデジタルデータ化するというから、その徹底ぶりはすさまじい。


そうやって全生活を記録していくと、仮に人の一生を82年としたなら全データはだいだい3テラバイトになるそうだ。テラバイトといえばとんでもないデータ量かとおもってしまいそうだけれど、今ではけっしてそんなことはない。データバックアップ用の外付けハードディスクだって、普通に1テラバイトクラスのものがある時代だ。これがいちばん安いものだったらすでに3万円を切っている(→ http://kakaku.com/sku/pricemenu/pickup/0530_001.html)わけで、となると人の一生は、記憶メディアのコストだけなら8万円以下で記憶できることになってしまう。


とはいえ、根源的な問いは宙に浮いたままである。つまり「そうやって生活のすべてをデジタルデータ化して、一体どんな価値があるのか?」


正直なところわからない。日経産業新聞の記事によれば

患者が身に付けている記憶装置を使い、医師が過去の病歴を把握しながら治療したり、認知症の人が過去に何を食べたかを確認して適切なアドバイスをできる(日経産業新聞2008年1月22日付1面)

とあるけれど、それがそんなに大したことなのだろうか。


もしかしたら何もかもが記録されていると思えば、人は何も覚える必要がなくなるのだから、記憶力が著しく衰えるかもしれない。ということは逆に考えれば、いささかボケが始まりかけた人にとってライフログはとてもありがたいサービスとなる可能性はある(ということはまさしく自分がターゲットというわけだな。確かにミーティングなどでも人の発言はせっせとメモするけれども、自分がしゃべったことはメモせず、覚えていることもできずという悩みを抱えている私にとっては、これは便利かもしれない)。


はたまた何も覚えなくてよいということは、脳の中の記憶に使われる分野が退化・縮小し、その替わりにほかの部分が膨張・活性化する可能性も考えられるかもしれない。そうなると人は平均的に、今よりももっと
賢くなれるかもしれない。であるなら、学力低下が嘆かれている学生諸君にこそ、こうしたデバイスは役立つのかもしれない。


勉強の仕方も変わるのかなあ、見たもの・聴いたものが何でも自動的に記録されているとなれば。それならいっそのこと、瞬間瞬間に頭の中に浮かんでくるあれやこれやもすべて記録してくれれば、より便利ではないか。


などと妄想は広がるばかりなのだが、さて。問題はこのライフログサービスがビジネスとして成立するのかどうか、である。ニーズはたぶんあるだろう。コスト的にはそこそこリーズナブルなラインで成立しそうだ。ただしである。ユーザーメリットを考えるなら、膨大なデータの中からタイムリーに必要なものだけをピックアップしてくれるノウハウ、すなわち進化版検索システムが必要不可欠だと思う。


ということは、これもいずれはGoogleのサービスとして無料提供されるのかもしれない。と思ってGoogle Labsをのぞいてみると、『Alternate views for search results』なるサービスが開発中だったりする。これってもしかしたらライフログ時代を先取りした研究だったりするのだろうか。だとすればやはりGoogle恐るべしだ。




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