「あらたにす」が新たにするもの


新聞読み比べサイトができた


「新s あらたにす(→ http://allatanys.jp/)」である。これは実に興味深い試みだと思う。新聞での告知によれば

新サイトの特色は三つの新聞の「よみくらべ」です。一面、社会面の主要記事や社説などが三紙分いっぺんに読めるので、ニュースの速さだけでなく、その切り口や論調の違いなども実感していただけると思います(日経産業新聞2008年1月31日1面)。

とある。


これは実に興味深い。しかも、その三つの新聞というのが、日経、朝日、読売となれば、これから先どんな展開になるのかがいろんな意味で本当に楽しみだ。ある意味では、これは新聞にとって「パンドラの箱」となる可能性もある。


注目したいのは社説の読み比べである。さすがに社説ともなれば、各社選り抜きのライターが書くことになる。そして「(わが)社(の主張する)説」というぐらいだから、タイムリーなテーマに対して各社がそれぞれに主張を展開している。文字数もきちんと確保されている。これが実はクリティカルシンキングの練習には格好のネタになる。


つまり社説ではまず主張があり、そう主張する根拠がていねいに展開される。そこをきちんと読み取ることがクリシンのよい練習になるわけだ。さらに同じテーマについて立場の異なる各紙が、異なる主張/根拠(に基づく推論の展開)をすれば、より多面的にものごとをみるための非常に良い訓練になる。


たとえば今朝の時点での社説の比較をすると(→ http://allatanys.jp/A003/index.html)
朝日:中国製ギョーザー食の安全に国境はない
日経:中国製ギョーザ中毒と企業・行政の責任
読売:中国製餃子 「食の安全」守る体制の強化を
タイトルだけを見てもスタンスの違いが出ている。


サイトではタイトルに続いてリード部分も読める。ここを要約すれば
朝日:今回の件は中国にも、日本の輸入会社にも重い責任がある
日経:日本の企業や行政の責任と課題も重い
読売:中国には「食の安全」の徹底を求めたい
さらにスタンスの違いがはっきりする。


全文を読むためには各社のサイトにアクセスすることになるが、たとえば各社の主張・根拠・推論の組み立て方などを自分で表に整理してみると、これはとてもよい頭の訓練になるだろう。自分の頭を使って、こうした整理をしてみることでステレオタイプ的にいわれる「朝日は左、日経は経済オンリー、読売は右」といったバイアスが本当にかかっているのかどうかを確かめることができるはずだ。


冒頭で、この「あらたにす」の取り組みがパンドラの箱になるかもと指摘したのは、こうした各紙のポジショントークの違いを読者が意識するようになったらどうなるのかを考えたからだ。読み比べるということは、読者サイドからすれば当然、自分にとってもっとも納得のいく記事がどれなのかを意識することになる。これが各紙のライターに微妙なフィードバック効果をもたらす恐れはないのだろうか。


もちろん従来でも新聞を何紙もとって、たとえば社説の違いを検証していた人はいただろう。が、そこまでやるにはコストも時間もかかる。しかし、これがサイト上で完結するとなると、読みくらべる人は相当に増えると思う。となればたとえば「あのテーマに関して朝日はこうで、読売はこう、それに対して日経はこんなことを言ってたわけで、おれは朝日が正しいんじゃないか」といった声がきっと出てくる。


そうした声はたぶんネット上で出てくる。というか、もしかしたら各社の社説徹底比較サイト、なんてのもあり得るかもしれない(いま書いていて思いついたけれど、まじでビジネスモデルになるかもしれない)。仮にそんなサイトができて、そこでいろんな議論が交わされるようになれば、各紙の社説記者だってまったく無視はしないだろう。ということは社説執筆において、これまでなかったファクターの影響を受ける可能性が出てくるのではないだろうか。これがフィードバック効果である。


と同時に各紙がお互いを以前よりも意識し出す可能性も考えられる。その結果がどうなるのかは、これからのお楽しみ。各紙がさらにポジションを鮮明にした論説を展開するようになれば、これはおもしろいと思う。


と同時に、これはもしかしたらリアルな紙の新聞がなくなっていく「はじめの一歩」になる。そんな予感もする。




昨日のI/O

In:
『本質を見抜く考え方』中西輝政
Out:
メルマガ
ポルタウォーキング・コピー

メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「無料/有料モデル+信頼性担保」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
「あのディズニーが負けた。なぜ?」
http://www.insightnow.jp/article/918

昨日の稽古: