本が書かれた場所


その本が書かれたかもしれない場所で、その本を読んだ


いつもなら飲んだ後に本を読むと酔眼朦朧、まともに頭に入ってこない。それどころか本など1ページも読めばたいていの場合は、眠気に負けてしまうことになる。にもかかわらず、昨夜はホテルの部屋に戻って単行本を一冊丸々読み終え、さらにそれでも目が冴えるので二冊目に入ってしまった。


さすがに3時前になったので仕方なくベッドに入ったが、読もうと思えばまだまだ読めたように思う。酒が足りなかったわけではない。親しくしていただいている方々からディナーにお招きを受け、そこそこにワインを嗜んだ。それでもまだ少しばかりお酒が足りないなと不安に思ったので、ワインのハーフボトルを買って帰り、飲みながら読んでいたのだ。


アルコール摂取量は、普段のペースで考えれば致睡量に十分に達している。しかしまったく眠くならず、読めば読むほどその本に書かれてあることが、まさに著者が耳元で私だけに親しく語りかけてくれているかのようにすっと頭に入ってきたのだ。


なぜだろうか、と考えて気付いたのが、冒頭のことばである。昨夜、私が泊まったのは、東京は神保町の学士会館である。そして私が読んでいた本というのが『期間限定の思想』、著者は内田樹先生である。


何のことだかさっぱりわからないかもしれない方がほとんどかもしれない。少し説明すると、そもそも私が学士会館なる類い稀なコストパフォーマンスを誇るホテルを知ったのは、内田先生のブログを読んだからである。先生のブログにはときどき東京に出張されたときのことが書かれてあり、常宿として学士会館の名前がたびたび記されていた。そこで興味を持ち少し調べてみると、これがなかなか趣のありそうなところである。しかも東京のど真ん中にしては、破格に安い。


ということで一度泊まってみて、その良さを実感したわけだ。このあたりのことは以前のエントリーで書いた(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20070712/1184209397)。振りかえってみれば、それ以来東京で泊まる必要があるときは、いつも学士会館である。逆に予約を取れなかったりした時は、何としてでも奈良に帰るようにしている。


その学士会館に今回も泊まっている。そこで内田先生の本を読んでいる。ということは、私が今まさに読んでいる本は、もしかしたら、私が今まさにその本を読んでいる部屋で書かれていたかもしれないではないか。もしかしたら、私が今本を読んでいるまさにその机の上で、内田先生がパソコンをぱたぱたと打っておられた可能性さえある。


だからどうなんだ、といわれればうまく言葉にすることはできない。ただ、何かが違うことだけははっきりしている。アルコールは確かに入っているけれども、本に書かれた言葉が視覚と聴覚と第六感の三方向から自分の中にす〜っと入ってくるような気がする。こんな経験は初めてである。


もちろん、これが錯覚に過ぎないことは重々承知している。たまたま読んでいる本が書かれた可能性のある場所にいるだけのことであって、その本のすべてがここで書かれたなんてことはあり得ない。現実的には、学士会館で書かれていない確率の方がはるかに高いだろう。


しかも本を読んでいる間は、そんなことはまったく考えもしなかったのだ。読み終わった後で、おかしいなあ、なんで今夜は飲んだ後で本を読んでいるのにまったく眠くならないばかりか、今夜に限っては書かれていることがびしびしと伝わってくるのだろうと不思議に思い、考えた結果の話である。


ただ、そういう不思議な体験をしたこと。これだけは記録しておきたいと思った次第。なかなかおもしろいと思いませんか。こういう経験って、滅多にできないと思う。


話は変わるけれど学士会館については、今回さらに不思議感と好感度が増した。


不思議なことは、メールを受けることができるのに送信がなぜかうまくできない。MacOSの標準メーラーであるMailアプリではパーフェクトにダメである。Gmailの自分のアカウントにもアクセスできない。とても不思議だ。それではとThunderbirdで試してみると、これが送信できる。のだが、なぜか送信可能なメールと送信できないメールがある。謎である。


好感度については、こうしたメールの不具合をフロントの方に伝えておくと、わざわざプロバイダーに電話して理由を調べてくれた上で、対処法を教えてくれたことがあげられる。調べてくれた相手はプロバイダーだけではない。なんとGoogleにまで、なぜGmailが使えないのかを問い合わせてもくれた(残念ながら滞在中にGoogleからは返事が来なかったようだけれど)。


もう一つ、今回の発見は読書室である。これが実に快適に仕事をできるスペースである。ここも残念ながらMacユーザーは無線LANにアクセスできないが、書き物仕事に集中するのなら、ネットが使えない方がよいこともある。仕事に疲れたときは、屋上庭園でひなたぼっこもできる。


とてもきちんとしたよいホテルである。



昨日のI/O

In:
『期間限定の思想』内田樹
Out:
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