宝くじの広告が嫌いなわけ


別に常磐貴子やユースケ・サンタマリアに文句があるわけではない


ただ、なぜか宝くじのコマーシャルを見るたびに腹が立っていたのだ。理由なき怒りみたいなものである。決してタレントのせいではないははっきりしている。むしろ常磐貴子さんをはじめ歴代の宝くじタレントさん達はみんな、個人的なストライクゾーンにきっちり収まっている人ばかりだ。


にも関わらず、妙に腹が立つのである。とはいえ怒り心頭とか怒髪天を突くという激しいものではない。自分だって時に懐に余裕があるときには、宝くじを買ったりするのである。特に年末ジャンボなどには「これが当たれば家を買えるなあ」などと不埒な願いを込めていたりもする。だから宝くじにはお世話になっているといえないこともない。もちろん、残念なことにこれまで宝くじが当たって欣喜枝雀した、なんてことは一度もないのだが。


宝くじのCMを見て腹が立つ理由は、何かこう、誰かが非常に巧妙にずるいことをしているのがわかっているにもかかわらず、誰も表立ってはそれを制止できないことに対するもどかしさのようなものを感じるからだろう。一体、この妙な不快感は何に由来するのか。昨夜、そんなことをサウナの熱気で朦朧とする頭で考えていて、ようやく答らしきものにたどり着いた。


ひと言で表すなら「狡い(ここはひらがなで「ずるい」と書くより、漢字を使う方がイメージが合いますね)」のである。


ユースケ・サンタマリアがスクラッチを削って、いくばくかのカネを手にするCMがある。彼は手に入れた金で旅行に出かけ、買い物に耽り、美食三昧を尽くしている。そして気分は「プチセレブ(だったと思うが微妙に違うかもしれない)」などとほざく。ここである。


確かに、宝くじに当たればコマーシャルが見せてくれるゴージャスな暮らしを楽しむことができるだろう。しかし、宝くじは当たらないのである。仮に1等2億円の宝くじが30億円分売り出されているとして、それを全部一人で買い占めたとしても配当は14億3000万円にしかならない(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20051228/1135721370)。これが宝くじの還元率であり、率は最初から決まっているのだ。


つまり宝くじというのは、確実に胴元が儲かるバクチである。というか、勝敗が最初から決まっているものをバクチとは呼ばない。そういうのはイカサマと表現する方が適切である。そのようなアコギな賭博の広告が、テレビで堂々と放映されていることに違和感を覚えたのである。考えてみれば、これほどまでに人を欺くコマーシャルはほかにない。


およそ、ほとんどすべてのテレビCMは、購買する商品やサービスがそれを買う人に与えるメリットを説明するように作られている。クルマ、クスリ、化粧品、食品、家電製品と対象が何であれ、CMがアピールするのは実際の商品(サービス)である。もちろん、たとえば「肌をキレイにする」化粧品が実際には、肌に合わないぐらいのことはあるかもしれない。とはいえ、大げさにいえばその化粧品の開発思想そのものは、あらゆる人の肌をキレイにすることだったはずだ。


これと宝くじのコマーシャルを比べてみれば、その違いがよくわかる。宝くじのCMがアピールする世界を手に入れることができる人は、何万分の一の確率をめでたくもくぐり抜けることができた人だけである。わかりやすく言うなら、宝くじを買う人が1万人いたら、9999人ぐらいは最初からハズレが確定しているということではないか。


こうしたカラクリがあることがはっきりしているのにも関わらず、宝くじCMが描いてみせるのは、1万分の1の確率しかない世界である。この欺瞞性に腹が立っていたのだ。同じような公営賭博について、まだ競馬(たまに競艇のものもあるけれど)のコマーシャルの方がましなのは、あからさまなウソを表現していないからだ。競馬のCMが訴求するのは、馬の美しさであったりレースが与える感動である。


その先には賭博があることは誰もが知っているし、そう簡単に勝てないこともみんなわかっている。だから「競馬で勝って億万長者になろう」などといったふざけたメッセージは、おそらく未だかつて流されたことはない(はずだ)。然るに知識あるマニアが真剣にやる競馬よりもはるかに勝率の低い宝くじのCMが、嘘臭いメッセージをまき散らすことに対して嫌悪感を覚えたのだ。


思えば近未来通信の広告を見たときにも、激しい違和感があった(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061114/1163454193)。そんなうまい話があるわけない、とつくづく思ったものだ。その近未来通信がどうなったかは、ご存知の通りである。広告の端っこの方に携わる仕事をしているものとして、こうした嗅覚は大切にしたいと思う。


昨日のI/O

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