情報の純度とは


「情報は上の階層を通るほど純化されるんだ」


大阪府職員で上の階層におられる方の発言らしい。先日、大阪府知事となった橋下徹氏は府の全職員にあててメールを発信した。府政に対する知事の基本的な考え方が記されたメールには、職員の考えや問題指摘などを知事あてにどんどん送って欲しいと書かれていた(→ http://mainichi.jp/kansai/osakaprefelection/news/20080221ddn041010010000c.html)。 


そうしたメールが知事から直接飛んできたことに対して、下の階層(という表現は少し妙だけれど)にいる職員は府政の変化に対する期待を持ち、上の階層にいる(=幹部職員ということになるのだろう)は不快感をあらわにした。反応は好対照であり、これはなかなかおもしろいケースだと思う。


確かに幹部職員の考え方にも一理はある。まずもって府の職員全員が知事にメールを送ったりしたらどうなるか。知事は「読む」というのだろうけれど、物理的に難しいのではないか。府の職員は教員、警察官を除いて1万人もいる。仮に1万通のメールが来たとして1通を読むのに2分かかったとしたら、それだけで333時間にもなる。一日3時間をメールを読む時間に充てたとして、合計110日もかかることになる。


現実的にはあり得ない話だが、そうした事態を避けるために企業や官庁はピラミッド型の組織を作って、トップにはあらかじめ精査された意義のある情報だけが上がるような仕組みを作ってきた。このような仕組みによって情報の純度が上がるという考え方が背景にある。


経験の浅い職員の目には奇異に映ったり、一見ムダとしか思えない慣習のなかにも、長年の経験に基づいた確かな有用性が認められるものもあるだろう。経緯を知らない若造が「こんなのおかしい」と声を挙げ、それがダイレクトに知事に届くのは心外と感じる上の方がいるのもわかる。知事だって経緯は知らないのだ。まかり間違えば若造の声を受け入れるリスクを、上層部は敏感に察しているのかもしれない。


情報は経験を積んだ者によってスクリーニングされればされるほどコアな部分だけが残る。下から上へとそうしたスクリーニングをかけることで夾雑物を取り除き、最終的にトップにはトップが見るにふさわしい情報だけが届けられる。情報純度を高める仕組みとはこういう原理で動いているはずだ。


そうした仕組みにこれまで意義があったことを全否定するつもりはないけれども、やはりその考え方はいささか古いパラダイムに属しているのではないだろうか。情報伝達においても確実にパラダイムシフトは起こっているのだ。


では、新しいパラダイムとはどのようなものか。情報の読み取りから判断までのすべてが、受け手に完全に委ねられるようになったということだ。逆にいえばそうした洪水にも似た情報を受けとりながら、また場合によっては自ら情報の海の中に飛び込み、そこで得た情報と自分の知見をもとに適切な判断を下せること。これが新しいパラダイムで人の上に立つ人間に求められる情報感度ではないだろうか。


一切のスクリーニングを受けていない情報の多くには、ノイズが含まれているだろう。しかし、ノイズ情報を見極めるのも受け手の能力の問題である。それぐらいの情報処理能力がないと人の上に立つことはできない。そんな時代になってきているのだと思う。


少なくともネット上では、誰かが発信した情報を途中で誰かが改ざんすることは難しい。知事あてに職員が発信するメールは、ノイズごとダイレクトにその内容が知事に伝わるだろう。届いたメールをどう判断するかは知事次第というわけだ。


そもそも情報の純度とは一体何なのか。誰が、どんな基準で情報の純度を判断するのかといった問題を、旧来の「情報純化」システムは抱えていたはずだ。そうしたシステムの存在が、逆に情報を著しく歪曲させてきたケースも多々ある。誰だって自分にとってまずい情報をわざわざ上の人間に報告したりはしないだろう。そこに腐敗の生まれる余地がなかったとは言えないのだから。


ただ、これまではネットやメールのような情報メディアがなかったために、情報純化システムに頼らざるを得なかっただけで、ネットはそんなシステムを不要にしたわけだ。


橋下知事のアクションが大阪府をどう変えていくのか。これはもしかしたら、日本の自治体を変えるキッカケになるのかもしれないし、さらには日本全体を変える最初の一歩になるのかもしれない。橋下知事が実際にどんなことをできるのかはわからないが、府の組織に波紋を広げる石を投げ込んだことだけは間違いないわけで、これからの動きがちょっと楽しみである。





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