通販はおもてなしがカギ
前年比約10兆2000億円減
07年の小売業販売額である(日本経済新聞2008年3月25日朝刊35面)。この一年だけで10兆円も売上が落ちている。これはなかなか強烈な数字だ。もう少し詳しく見ると、百貨店やスーパーに限った売上は10年連続(!)前年割れとなっている。ピーク時からみれば約3兆円の売上が消えたことになる。
これはもう完全に一つの流れ、言葉にすれば「百貨店離れ」や「スーパー離れ」ができ上がってしまっているといえるだろう。意外だがコンビニも8年連続で前年割れだ。コンビニの中にはもちろん勝ち組もいるはずだけれど、業界トータルとしてみればすでに衰退期に入ったのかもしれない。そして自動車の販売台数も昨年は25年ぶりの低水準となった模様だ。
でも、少し変である。たしか日本経済はついこの前まで戦後最長の好景気といわれていたはずではないか。景気がよくなっていたのなら、いくら遂に人口減少社会になったとはいえ、もう少しモノが売れても良さそうなものだ。どこかおかしくはないか。
実はその通りで、トータルで見ればモノが売れなくなったわけでは決してないのだ。なぜなら07年の民間の最終消費支出そのものは、過去10年間で9兆円も増えているのだから。年間ベースで1兆円弱ぐらいマーケットは伸びているのだ。要するに小売の店頭ではモノが売れなくなったけれども、別のチャンネルで人はちゃんといろんなモノを買っていることになる。
ではみんな、どこで買っているのか。通販である。その象徴的なケースがクルマだ。統計によれば昨年度の一ディーラーあたりの年間平均販売台数は3800台らしい。これに対してネットの自動車屋さん「オートバイテル」経由の成約件数は2万件を突破したという(前掲紙)。
もはや自動車もネットで買う時代になったというわけだ。これはかなり興味深い事実だと思う。つまり消費者の意識の変化がここには見事に現れている。一つには自動車の完全なコモディティ化である。所詮自動車もネット通販で買うぐらいのモノになったということだ。さらにはネット通販に対する信頼感がクルマを買えるレベルまで高まったということでもある。
一昔前(正確には二昔前ぐらいかもしれないが)なら、自動車を買うことは結構おごそかな儀式であった。まず手始めに自動車雑誌を買ってお目当ての車種を何台か目星を付けておく。次にディーラー周りをしてカタログを集め、ついでに可能ならば試乗もさせてもらう。それからおもむろに各社営業マンとの交渉を開始する。我が家では私が小学生の頃、この交渉に父親、母親に私、さらにはおばあちゃんまでが参加していたことを覚えている。ともかくこの交渉ではあの手この手の値切り交渉を行ない、最終的には意中のクルマをできるだけ安く手に入れることに命を懸ける。
とことん値切り倒してもそこで納得してはまだダメである。それ以上売値を下げられないのなら、あとはどれだけオプションをつけてもらえるかに、また命を懸ける。そこまで時間をかけ苦労して手に入れたクルマはまさに「愛車」であり、休みのたびに洗車してワックスをかけてていねいに乗る。私の父親とクルマの付き合い方はそんな感じだった。
というようなことは、今ではほとんど誰もやっていない。クルマなんてきちんと走ればそれでいいのである。だったらディーラーをまわってカタログを集めたり、あるいはいちいち営業マンと狐と狸のバカし合いみたいな面倒な交渉をすることもない。ネットで欲しいクルマの情報を手に入れ、もっとも安く買えるディーラーをサクッと検索してそこで買う。このほうがよほど便利である。
しかも何よりも貴重な自分の時間を、もっと他の有意義なことに使えるではないか。店売りが廃れて通販が好まれる理由は、時間効率を意識する人が増えて来たことが大きな要因だろう。
本を買うのも同じだ。欲しい本がある程度絞り込まれているなら、リアルな本屋まで出かけていって書棚を探し回るより(その結果、求めている本がなかったりすることもあるわけで)Amazonで検索&1クリック購入なら3分で目的の本を買える。しかも在庫さえあれば次の日には確実に手元に届く。
というぐらいにネット通販は一般的になって来ている。出前だってネットで頼める時代である。こうした環境の変化を受けて継続的に売上が落ちている百貨店もネット通販を拡大する戦略を採り始めた。百貨店のもっとも上得意である団塊の世代の方々もそれなりにネットを使いこなす時代である。これまでもギフト用品などはネット販売されていたが、もっと本腰を入れて雑貨などの日用品や店頭で扱いきれない商品をネット販売するらしい。
ここは少し見物である。
ネット百貨店各社が、サイト上でどんなおもてなしをするのか。ネットにはネットならではのおもてなしの流儀がある。本をたびたび買う身としてはやはりAmazonのおもてなしはよく考えられていると思う。それでもAmazonは未だにサイトを改善し続けている。たゆまないカイゼンによりAmazonはどんどん便利で使い勝手がよくなっている。こうしたネットならではのおもてなし改善運動を百貨店サイトが続けることができるかどうか。
逆にいえば、最初から満点を目指さずに、とりあえずその時点で提供できるベストサービスをとにかく速く出し、出した後で常にリニューアルを続けることができるかどうか。「うちは老舗だから、いい加減なことはできない」という意識を取り除くことができた百貨店サイトがあれば、そこはうまくいくんじゃないだろうか。さて、どの百貨店グループのサイトが一番使い勝手のよい仕上がりになるだろうか。
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