ティップネスが開いたパンドラの箱


12,600円→6,300円(+)一回あたり利用料


ティップネスが新しい会員制度を導入する。月会費を半額にし、その代わり一回ごとに利用料を徴収する。これは相当チャレンングな取り組みだ。カーブスに代表されるコンビニフィットネスチェーンに、いよいよ禁じ手を打たざるを得ないところまで追い込まれたのかと余計な心配をしたくなる。


少しおさらいしておくとティップネスは業界4位。トップがコナミスポーツ、以下セントラルスポーツルネサンスと続く。ティップネスの07年度売上は約320億円、全国に56店舗あり会員総数は約22万名である。


ちなみに、ここ数年の推移を見ると売上/会員数の前年対比の伸び率は
06→07:105%/108%
05→06:116%/117%
04→05:111%/118%
03→04:108%/106%
となっている。06年度から07年度にかけての落ち込みは、おそらくカーブス上陸の影響だろう。


07年度に絞ってみれば、売上/会員総数で会員一人当たりの売上が、ざっと14万5千円となる。一月にならせば1万円強といったところだろう。では、月会費を半額にすることの何が禁じ手となるのだろうか。


ラクリはかつてのテレフォンカードと同じだ。NTTは一昔前、テレフォンカードで莫大な利益を上げた。どういうことかといえばテレカはプリペイドカードだということである。すなわちテレカはそれが売れた時点で、実際にテレカとして使われようが使われまいが関係なくNTTの利益となる。厳密にいえばテレカにも製造コストがかかっているから、まるまる全部が利益というわけではないが、実質的には製造コストなど微々たるものだったはずだ。


さらにテレカを買ったお客さんが、実際に電話を使うかどうかもNTTのコスト構造にはまったく影響を与えない。これも厳密にいえばテレカを使ってお客さんが電話をかけると、通信コストが発生し(ほんまかな?)、さらには電話機も傷んでくるだろうからメンテナンスコストはかかるかもしれない。が、それはテレカの原価には入らないはずだ。


しかもテレカを買ったお客さんが、必ず買った分だけ電話を掛けるわけでもない。すなわち死蔵されるケースも多々ある。このあたり「うまいなあ」と思ってみていたのは、テレカにデザインや写真などでプレミアムをつけて、おそらくは一生使われないであろうスペシャルテレカを、オプションデザイン代などをオンして売っていたNTTの戦略である。


記念品だから大切にとっておくテレカ(=死蔵される)を、通常価格より高い値段(オリジナルデザイン制作費を取って)で売る。しかもオリジナルデザインカード制作は自社で独占。なんとよくできたビジネスモデルであることか。


話がずいぶんとそれたが、フィットネスクラブの月会費制度も基本的にはテレカと同じシステムになっているわけだ。すなわち、会員全員がきっちりと毎日、フィットネスをやりにクラブに来られるととんでもないことになる。試算するとティップネスの会員数が約22万人で56店舗ということは、一店舗あたりの会員数は4000人弱となる。これだけの会員が一時に集中してくることはあり得ないにせよ、万が一にでも、一日に集中して来られたりするとものすごく困った状態になるわけだ。


現実的には一店舗4000人の会員のうち、毎日来るようなヘビーユーザー10%、週に1〜2回来るユーザーが60%、月に1〜2回のユーザーが30%といった割合だろう(あくまでも感覚的な数字だけれど)。そして肝は、月に1〜2回しか来ないけれどもきちんと月会費をはらってくれるユーザーとなるわけだ。これがテレカモデルでいうなら、テレカを買ったけれども実際にはほとんど使わないお客さんに相当する。


ところが今回のティップネスのように月会費半額+利用ごとに利用料制度を導入してしまうとどうなるか。利用回数の少ない人(ティップネスサイドにとってうま味のあるお客さん)ほど、この制度に移行するリスクを抱えることになる。その結果どうなるか。利益率の大幅ダウンとなるのではないか。


もちろんそんなリスクは経営陣にすれば織り込み済みだろう。競合との価格差別化を図ることによって、会員数が増えれば結果的にはペイするとの判断があったのだと思う。しかし、この制度は他社でも簡単に追随することが可能だ。仮にそうなったときには、他社との差別化を図ることは難しくなり、結果的には利益率を悪化させるだけ競争が始まる、というリスクを抱えることになる。


そして何より怖いのは、いま機嫌良く(というあまり意識することなく)あまり利用しないにも関わらず高い月会費を払ってくれているお客さんが「うん? フィットネスクラブの会費制度っておかしいんじゃない?」とか「利用回数当たりで考えたら、かなり高いわね!」などと考え始めることだろう。


ティップネス一社が導入したこの制度は、意外にフィットネス業界全体に影響を与えかねないパンドラの箱だったのではないかと思う次第だ。




昨日のI/O

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昨日の稽古:

・懸垂、カーツトレーニン