売る(買う)のは時間か能力か


大学卒業して、きっちり4年


サラリーマン生活をした。厳密にいうと、そのあとのデザイン事務所でコピーライター&プランナーをした時代、さらには広告プロダクションでプランナーをしていた時代も、給料をもらっていたという意味ではサラリーマンであった。が、働き方は最初のサラリーマン時代とはまったく違った。


新卒で入った会社は広告ブローカーである。といっても別にあやしい企業ではない。ちゃんと保険も入っているし、年に一回はきちんと健康診断も受けさせてくれた。その会社で最初は京都市内の印刷屋さん、断裁屋さん、加工屋さんに紙屋さんをクルマでまわり、いろんな紙を運んでいた。これが印刷ブローカーでの修業時代である。


しばらくして営業マンとなった。最初は市内の呉服屋さん廻りからである。このときの想い出はひたすら正座が辛かったことだ。後にインテリア商社を担当するようになり、金沢、名古屋、東京への出張を繰り返していた。この頃、父親が労働基準監督官だったゆえに「残業代はきっちりもらえ」と教え込まれていたので、毎月の残業代が120時間ぐらいになっていた。


実は、この会社の営業マンは残業代を求めないことが暗黙のルールになっていた。なんというか、経営者思いの営業マンが揃っていたというか。営業マンは当然のことだが昼間は営業活動に勤しんでいる。この営業活動をしている時間は見方によってはお客さんとしゃべっている時間である、と考えるわけだ。そして夕方になって会社に戻ってきて、印刷物の手配をする。ここからが本番の業務である。


ということは、本当に業務をしているのは夕方から深夜までの数時間でしかない。それなのに残業代を請求するなどというのは会社に申し訳ないではないか。そんなロジックで上司から一度、注意されたことがある。もちろん超・生意気な新入社員だった私は「それなら、営業活動は業務ではないのですか。営業の仕事とは、文字通り営業。注文とってきてなんぼでしょ」などと反論し、「ばかもん」と怒られた。


怒られはしたが残業代はしっかり届けを出して請求し、会社サイドでも現役の労働基準監督署長の息子と問題を起こしてはマズいと考えたのだろう、届け出通り残業代は払ってくれた。するとどうなるか。一年上の先輩よりも毎月の手取りが10万ぐらい多くなってしまうのだ。それはおかしいじゃないかと思った先輩も、残業代を届け出るようになった。ちょっとした残業代革命である。今にして思えば、ろくに仕事もできないくせに会社に申し訳ないことをしたと思う。


ただ当時の自分の意識としては、給料は拘束時間に対して支払われるもの、であった。ひどい社員である。いま、自分が当時の会社の社長だったら、自分のような社員はあっさりクビにするだろう。


次に入ったデザイン事務所も、組織としては株式会社であった。そして給料制である。ただし、ここでもらう給料は拘束時間に対して支払われるのではない。求められるのはあくまでも成果である。これは徹底していた。だから極端な話「ここにキャッチコピー一本、ちょうだいね」と頼まれれば「オッケー。それでいこう」と言ってもらえるコピーを出すまで仕事は終わらない。デザイナーが帰る時間になっても、まだできていなければ「じゃ、明日の朝でいいから」となる。


その後は徹夜しようが何しようが残業代などは付かない。当たり前のことだ。その代わり、やるべきことを締切までにやりさえすれば、あとは自由である。幸いにも今日は打合せもないし、今日中に上げなければならないコピーもないし、なんて日には「ちょっと社会勉強してきます」などといって、デザイナーの女の子とドライブしたりしても許された。


このデザイン会社が買ってくれていたのは、私が出す成果である。ということは本当なら、たくさん成果を出したときには、たくさん給料をもらっても良かったのだろうけれど、そこまでを自分から求めることはなかった。とにかく時間を自由に使える開放感がすごくうれしかったのだ。


次に移った広告プロダクションでも同じような働き方をした後、フリーになる。今度は自分が働いて稼いでなんぼの世界である。そして稼いだ分は、一緒にやっているデザイナーと丸ごと山分けである。売っているのは、イコール買ってもらっているのは、プランでありパンフレットでありポスターでありチラシであるわけだ。これこそ、発注してもらってからどれだけ時間をかけようが、相手にはまったく関係ない。そりゃ訂正が入りまくって大変だったからというケースもなかにはあるが、そういう場合は別として対価は提供した価値に対して支払われる。対価は市場バランスによって決まる。能力も少しは加味してもらえる。


結局20代の終わりぐらいから、ずっとそうした働き方をしてきた。おかげで自由に使える時間だけは、ずいぶんと手に入れた。もちろん、その代償はきっちりと支払わされていて、とりあえず退職金はないし、老後の保障もないし、ボーナスだってここ15年ぐらいはまったく縁がない。


ただ二つ、確実にいえることがある。一つは、たぶん時間を売る生き方は自分にはできなかっただろうということ。もう一つは、大きな組織の中で、自分なりの実績をうまく出すことも難しかっただろうということだ。本当は、こういう働き方を望む人がこれから増えてきたとき、そういう組織を運営することはビジネスモデルとしてどうよ、ということを考えたかったのだが、話がそれたまま終わってしまった。続きは、またの機会に。


お一人様仕事術、その拾
『お一人様は、時間を売るな』


昨日のI/O

In:
大阪チタニウム社インタビュー
ハーバード・ビジネス・レビュー
Out:



メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

音声認識技術の可能性」
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空手バカ一代じゃないけれど」
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昨日の稽古:富雄中学校武道場

・縄跳び/柔軟体操
・基本稽古
・移動稽古
・約束組手