テレビCMがなくなる日


2000万アクセス/1,000ドル


伝説のYouTubeビデオである(→ http://www.eepybird.com/dcm1.html)。日本でも去年、かなり話題になったので見られた方もたくさんいらっしゃるだろう。このビデオを作ったのは、いわゆるプロではない。


ビデオに登場する白衣の二人組のうちの一人の本職は、弁護士だという。

(弁護士の)ボルツ氏は、自分たちでサイトを立ち上げ、ビデオを流すことで自分たちのパフォーマンスを広げようと発案した。
人気に火がついたのは、ボルツ氏の弟の友人がビデオ配信サービス「レバー」にリンクを載せてから。「朝アップして午前中だけでヒット件数は四千、夜には一万四千件に。急拡大のペースが怖かったほど」とグローブ氏(二人組のもう一人)は語る(日経MJ新聞2008年5月12日付け1面)。


以降、このビデオはYouTubeにもアップされて爆発的なアクセスを稼ぐことになる。その結果が、推定2000万件のアクセスにつながった。注意したのは、これが「アクセス」であることだ。テレビCMは見たくもないコンテンツが、視聴者に押し付けられるケースが多い。だから視聴者はCMになるとチャンネルを変える、録画しておいてCMを飛ばして見るなどの対応策を取る。


それさえ面倒くさいときにはCMを眺めることぐらいはあるかもしれないが、決して積極的に見ているわけではない。ところが、このダイエットペプシメントスのビデオが稼いだ2000万件のアクセスは基本的に、視聴者がわざわざサイトにアクセスして見に来た件数である。この視聴者のテレビCMとは正反対のスタンスが、どんな結果につながったか。

一部調査ではビデオが出回った直後にダイエット・コーク(二リットル入り)の売上高は5%、メントスは20%増えた(前掲紙)。


この売上増はおそらく、ビデオを真似して実験する人たちが買ったことが原因だろう。その意味では、商品本来の価値が認められたわけではないといえる。とはいえ、短期間に売上高を20%も増やすCMを作ることがどれだけ大変なことかを考えれば、この素人ビデオの破壊的な力が理解できるだろう。


さらに、このビデオの制作・放映にどれだけのコストがかかっているかといえば、二人組のギャラは含まないが、わずかに1,000ドルである。しかもこのビデオはテレビ、新聞などのメディアでも取り上げられ、くだんの二人組には「ウォールストリート・ジャーナルなど全国紙からも取材が入った」(前掲紙)という。


そのPR効果までを計算に入れるなら、費用対効果はさらに破壊力を増すことになる。


ここでいう「破壊力」が何に対して向けられたものかといえば、その対象は旧来のテレビCMだろう。確かに数千万円のギャラをタレントに支払い、プロが企画し、最先端の映像技術を駆使して作られるCMの映像としての出来はすばらしい。文句の付けようがない。が、コンテンツに関してはプロのアイデアが必ずしも受けるとは限らない。


実際のところ、これまでにも膨大な数の印象も何も残らないCMが作られては消えていった。そのために使われた莫大な広告費(コンテンツ制作費とメディア費)は、結果的に商品価格に上乗せされているわけだ。


もしスポンサーが、素人100人ぐらいに一本10万円ぐらいの制作費を提供して、自由にCMを作らせたらどうなるか。そのCMをYouTubeで公開すればどうなるか。これにかかるコスト1,000万円では、従来型のCMをテレビで放映することはおろか、まともに製作することさえ不可能だろう。ましてやタレントを使うなどという選択肢はあり得ない。仮に何とかコストを切り詰めて1,000万円で作ったとして、それと素人さんが作った100本のビデオのどちらに「当たり」があるかは自明の理だろう。


この点に目を付けてスタートしたのがエニグモの「filmo」というサービスだ。こうしたサービスは、スポンサーの意識次第でどんどん増えていくのではないだろうか。実際にユーザーとよりコミュニケイティブなメディアは何か。コストパフォーマンスの高いコンテンツ&メディアは何か。


そしてユーザーにとっても、商品を含めた総合的な価値/対価バランスが高くなる(=広告宣伝費を抑えることができる)プロモーション手段はどうあるべきか。ダイエットペプシメントスビデオが開いた道は、テレビCMがなくなる日へと続いているのだと思う。



昨日のI/O

In:
テルメ金沢インタビュー
人工知能が人間を理解するとき/長尾真』
Out:
O社アニュアルレポート原稿


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昨日の稽古: