ひと(人)のひと(一)
ひと声、ひと手間、ひと工夫
いま三十代以上の女性に評判の良い店は、こんな風になっているらしい。
【その一・・・おじぎ】
よく行くスーパーマーケットでは、レジを打ち終わると店員が「ありがとうございました」と言って頭を下げる。その際に必ず両手をへその前で組むようになった
<中略>
手を組んで頭を下げるためには一度動作を止めなければならない。そのため、とても丁寧な感じを与える。利用者からは「上品な印象を受ける」とおおむね好評なようだ。
(日経MJ新聞2008年6月30日付4面)
あるいは、たまたま昨日の日経に、次のような記事もあった。
ーー日本に伝わるもてなしの心とはどんなものですか?
「わざわざ、いちいちということだと思います。客を迎えるために玄関に打ち水をし、ふすまや障子戸はいったん座ってからあけて客にあいさつする。そのための『一手間(『』は筆者)』を面倒と思わず、そこに心をこめるのが日本人だったはず」
(日本経済新聞2008年6月30日付朝刊5面「コシノジュンコ氏」)
以前、ある居酒屋に対してモニター調査を実施し、調査員にデプスインタビューをした結果、浮かび上がってきたのが「ひと声・ひと手間・ひと工夫」の力だった。どれもほんのささいなことである。しかし、これがある店とない店では、店を出た後の好感度に決定的な差がつくのだ。
つまり「ひと声・ひと手間・ひと工夫」してもらった記憶がある店は、圧倒的に好感度が高まるのである。圧倒的にというのは本当である。なぜなら「ひと声・ひと手間・ひと工夫」のなかった居酒屋はほとんど記憶に残っていないのだ。記憶に残っていないのだからリピートが起こる可能性も極めて低い。これに対して三つの「ひと〜」があった店は、それが印象に残っているのである。だから、また行ってみようかなと思うのだ。
逆にいえば、今の居酒屋業界で勝ち残るのが、実はいかに簡単かという話でもある。あるいは、今のお客様がいかにこうした「ひと=人による一つの」サービスを求めているかという証でもある。
好感を持つ深層心理に響くのは、人が自分のために何かを「わざわざ」してくれた感ではないだろうか。たとえば買い物に行く。これがスーパーなら(コンビニでも変わらないけれど)、レジで精算して「ありがとうございました」と声をかけてもらってちゃんちゃんである。とてもクールといえばそうである。
が、買い物とは本来なんだったのだろうか。はるか昔に思いを馳せれば、それは生きていくために必要だった物々交換に至るはずだ。自分が生きていくために必要なモノを、他人が生きていくために必要で自分が提供できるモノと交換する貴重な儀式であり、交流である。そして、物々交換に起源を持つ買い物は、つい最近まで続いていたのだ。
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』的世界である。お店で買い物する人と売り手の間には、何らかの(たとえ言葉として発せられることはなくとも)コミュニケーションが成立していた。ところが、そうしたお店が淘汰され、無味乾燥なショップが台頭し、その究極がネット通販に移行していった。
ところが、そこで意外な逆転現象が起こる。つまり究極のネット通販はとてもフレンドリーなのだ。たとえばAmazonである。このサイトではアクセスするたびに、こちらのことをちゃんと覚えていてくれる。前にどんなものを買ったのかを記憶し、こちらの好みを理解し「いまは、これがおススメですよ」なんて推薦してくれる。何か買ったら「これは贈り物にしなくていいですか」「送り先は、いつものご自宅で良いですか」「到着はいついつになりますが、よろしいですか(お急ぎなら、早く着く便もありますよ)」と、実に懇切丁寧である。
ひと声あるし、ひと手間も、ひと工夫もしてくれる。ネットでさえ、それぐらいのことはしてくれるのだから、という潜在意識が芽生えつつあるのではないだろうか。ネットって便利から、ネットって何か心地よいへの変化である。買い物は本来、心地よいものでなくっちゃあいかんのだ。だってお金を払うのはこっちなんだから。
だからそうした「おもてなし」が、確実に人に届く土壌が醸成されているのだと思う。ネットでさえそうなのだ。ましてやリアルな「ひと声・ひと手間・ひと工夫」なら、その力は極めて強いはず。今こそお店は、この三つの「ひと〜」に力を入れるべきではないだろうか。
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以前、行なったモニター調査をまとめたレポート小冊子『お客様を逃さない7つの魔法のサービス』が、少しですが手元にありました。もし、読んで見ようと思われる方がおられれば、お知らせください。
昨日のI/O
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石塚しのぶ氏とお話
※日本に来られるというので、わざわざお声掛けいただきお話ししてきました。ものすごく素敵で、ビジネスに対する倫理をバチッとお持ちの方でした。ありがとうございました。
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