四十歳からの空手6・このまま帰りたい、な

atutake2008-07-02



「お父さん、稽古、行こや」


入門して何とか3ヶ月続いた。よくも続いた理由のうち一番大きかったのは、息子のこの一声があったからだろう。わずか3ヶ月の間には金的を蹴られ、足をボロボロにされ(という受け身的表現は本当はおかしいのだけれど)と何回か痛い思いもしている。そして痛さの極めつけは、あばらにひびが入ったことだ。


2ヶ月目ぐらいから、組手稽古にも参加させてもらうようになった。前にも書いているように、組手といっても基本的にはごく穏やかなものである。黒帯の先輩は、ほとんど受けるだけ。10人ぐらいのメンバーのうち何人かは女性が混ざっている。もちろん女性とはいえ先輩である。いろんな技を知っているのである。しかも体がやわらかいので、上段回し蹴りなんて技がびゅんと飛んできたりもする。


が、向こうも遠慮してくれているので(こちらがあまりに下手なので)、それほどシビアなことにならない。問題は、ときどき稽古に来られる若い先輩である。ひと言でいえば、ちょっと血気盛んな方たちである。なかにはブルース・リーに心酔している方もいらっしゃる。そういう方たちにとっては、私のようなオッサンがちょうどいい練習台になったようだ。


といって、ガンガン攻められたりするわけではもちろんない。ただ「ほれ、上段ガードがないよ」とばかりに軽〜く頭を足でなでられたり、「あ〜あ〜、お腹ががら空きやんかあ」とカウンターでこれまた軽く突きを入れられたりする。


すると、なんと、ちょっと、熱くなったりするのだ。自分がそんなふうになるなんて、夢にも思わなかった。


これはものすごく意外な発見だった。自分では自分のことを基本的に極めて温厚な人間だと思っていたのだ。それゆえ、仮にどつかれたり蹴られたりしても頭に血が上ることなどあり得ない、と思っていたのだが。


いざ、やられてみるとイッチョマエにカ〜ァッとなるのである。歳は四十歳、孔子さんは不惑の境地を悟られたが、こちとらはまだ戸惑いっ放しである。年齢は初老に差しかかっているにもかかわらず、まだまだ男の子(は厚かましいですけど)の血が残っていたみたいだ。


しかし武道で熱くなるのは愚の骨頂である。先輩から見れば、さらにガラガラのがら空きだらけになっているのだ。「そろそろ一発ぐらいならいいか」と思われたのか、それとも「ちょっと注意しておいてあげないといかんなあ」と考えられたのかは知らない。とにかくカウンター気味に下突きを胸の下あたりにもらった。息が詰まった。言葉が出ない。「うぐっ」とか「ぐへっ」とか声にならない音が出るだけ。しゃべれない。


何とか、その先輩との組手を終えて下がったのだが、どうにも胸が痛い。といって激痛が走るというわけでもない。ただ動くと痛い。触ると痛い。くしゃみでもしたら、えらい痛い。そんな感じである。その痛みはしかし、しばらく消えることがなかった。後で支部長に聞くと「たぶん、あばらにひびでも入ったんでしょう。そのうち治りますよ」と軽くいわれてしまった。そんなもんなんである。


さて、わが空研塾は当時(8年前です)、木曜日と土曜日では微妙に稽古の趣が違っていることを以前書いた。そう、土曜日の方がちょっとシビアなのである。そして、土曜日の方が家から稽古場までが遠いのである。木曜日の稽古は奈良市学園前にある西部生涯スポーツセンターで行なわれており、土曜日は奈良市鴻の池にある中央体育館武道場で行なわれていた。


土曜日の稽古に向うべく息子を乗せてクルマを走らせていると、いつの間にか彼は寝てしまうのだ。後ろの席ですやすやと穏やかな寝息を立てている息子の顔を見ていると、「よし、今日はやめとこ。次の信号で引き返そ。胸も痛いねんし、ええやんな。一回ぐらい休んでも」と何度も思った。思ったけれど、彼が目を覚ましたときに、何と申し開きをすればよいかと考えた末に、やはり稽古から逃げちゃいかんと思い直した。



昨日のI/O

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