四十歳からの空手7・鼻血出た鼻折れた

atutake2008-07-05



「今年最後の稽古なんで、今日は組手をやりましょう」


9月に入門して以降、結局ほぼ一回も休むことなく週2回の稽古に参加した。お父さんは「今日はちょっとしんどいなぁ」と思っていても、息子くんは元気まんまん、ヤル気ガンガンなんである。彼は一日も早く千の技を身に付けたい一心で、休むことなどまったく考えない。しかも、わが子は道場内でちょっとしたアイドル的存在にもなっていた。


なぜなら、とりあえず、うまいのである。そして一生懸命にやるのである。同じ基本稽古を、同じ期間やっているにも関わらず、いや父親の方は自宅で秘密特訓基本稽古までやっているのに、子どもの技の方が明らかにきれいなのだ。上段回し蹴りなど軽く自分の頭の上まで足がはね上がっている。あまり続けると親バカになるけれど、塾長からは「奈良の天才少年」などとおだてられたりもしたぐらいなのだ。


子どもに比べれば情けないことこの上ないのだが、親父はまったくのダメダメである。とりあえずあばらにヒビが入ったことが、稽古に対する恐怖心を芽生えさせたのだ。故に組手が恐ろしい。特に自分よりも体の大きな人と向かい合うと、もうアウトである。空研塾の理念は「心が武器になる」なのだが、そんな境地は遥か彼方のこと。いかにして1分ほどの組手をケガせず無事に乗り切るか。これしか考えられなくなっていた。


今にして思えば、そういう態度は先輩方をずいぶんとイライラさせたのではないだろうか。何しろ組手で向かい合っても前に出ようとしないのだ。最初から戦う姿勢を放棄し、少しでも相手が前に来れば下がる一方である。稽古を付けてもらった先輩に押されまくっては「どうするんすか。下がってばかりで。どうするんすかあ」と責められていた。


責められると、さらに萎縮してしまう。まったくの悪循環である。よって基本稽古は大好きだけれど、組手稽古は大嫌いとなりつつあった。そんな心理状態で迎えた最後の稽古はしかし、組手オンリーの稽古となってしまったのだ。


黒帯の先輩が前に並ばれる。たぶん5人ぐらいおられたはずだ。その前に色帯以下が一人ずつ並んで向かい合う。黒帯の先輩は動かず、ずっと相手をし続ける。これに対して色帯はたぶん10人ぐらいが交代で、黒帯の先輩から稽古をつけてもらう。だから途中で休むことができる。組手の時間は1分である。


組手といっても先輩方が、がんがん攻めて来ることはない。相手に応じて受けを多くしたり、時に攻めたりといったペースだ。先輩が受けるということは、こちらは攻めるわけだが、未だに突いても蹴っても自分の方が痛い状況は変わっていなかった。だから、突き蹴りに伸びがない。それでは実は先輩の稽古にもまったくならない。少なくとも受けの稽古として意味のある組手をするためには、下の者ががんばって攻めないとダメなのだ。


そう言われても、である。しんどいなあ、早く終わらないかなあなどと思いながら、自分の順番を待っていると急に息子の泣き声が聞こえた。


何があったのかとみれば、鼻血を出している。彼も子どもなりに組手稽古に参加していた。といっても、もちろん大人と幼稚園児では相手にならないから、先輩方はしゃがんだり、すわったりして好きなように蹴ったり突いたりさせてくださっていた。その中で、ふとした弾みで先輩の足が鼻に当たったらしい。


いくら気丈にがんばっているとはいえ、そこはさすがにまだ幼稚園の年中さんである。痛みよりもびっくりしたのと、血を見たことに気が動転してしまったのだろう、泣き出してしまったのだ。えらいこっちゃと駆け寄ると、結構出血している。そこで血を止めるべく、いったん稽古場から出た。タオルを濡らしてきて鼻血を拭い、ティッシュをつめてやる。膝枕をして頭をなでてやり、落ち着かせることしばし。


今度は稽古場の中から「ひぎゃ〜っ」もしくは「ぎぎゃ〜っ」といった叫び声が聞こえてきた。ちょっと尋常ではない声である。何かと見に行くと、横たわった青帯の先輩のまわりにみんなが集まっている。その方も息子と同じく鼻を押さえている。鼻血が流れているのだが、単なる鼻血にしては様子がおかしい。実際に先輩の顔がどこか変である。


じっと見つめてみてわかった。本来ならまっすぐに通っているべき鼻筋が、途中で曲がっているのだ。組手稽古をしている最中に、黒帯の先輩の飛び膝蹴りが顔面に当たったのだという。そして運悪く膝は鼻にも当たってしまったらしい。これはすぐにお医者さんのところに行った方がいいということで、稽古は打ち切りとなった。


もちろん実際に当てる組手をしているのだから、時にこうしたケガをすることもあるのが空手である。ということがわかった、その年最後の稽古であった。




昨日のI/O

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