四十歳からの空手13・審査にビビる


「今度の日曜、昇段審査をやるんですよ。見に来ませんか」
「私なんかが行っても大丈夫ですか」
「できれば、タイムキーパーでも手伝ってもらえると助かりますね」


支部長からお誘いを受けて、審査とはどのようなものかを見学することになった。ほんの少しだけ、組手のおもしろさに気付き始めた頃である。先輩方が普段とは違って「審査」でどんな組手をされるのか、興味津々で出かけていった。


審査会場は体育館(奈良市・西部生涯スポーツセンター)のダンススタジオである。前方にテーブルとイスが用意されていて、塾長が来られている。来賓の方も一人(あとで空手塾の田前先生だと教えていただいた)おられた。


審査を受けるのは6名。黒帯をとるための昇段審査を受ける方が4名、茶帯をとるための昇級審査を受ける方が2名。審査を受ける先輩は、みなさん普段の稽古で顔なじみなのだが、知らない方も何人か混ざっている。審査で組手の相手をするために大阪の本部道場や別の支部道場から来られた先輩だ。


審査は基本稽古から始まった。普段の稽古では、先輩は後ろに並んでおられるために、その稽古の様子をみることはまずない。改めてじっと見ていると基本一つとってみても、みなさんやはり動きが違うことがよくわかった。もちろん、やっている稽古は同じなのだが、切れが違うというかなんというか。メリハリが効いているのだ。自分もそれなりに一生懸命に基本稽古をしているつもりだが、その違いが先輩の動きを見てよくわかった。ポイントは、ずっと力を入れ続けているのか、必要なとき以外は無駄な力を入れずにいるのか。これである。審査を見に来て、良かった、得したと思った。


そして審査は順調に進み、いよいよ組手の審査が始まった。まずは茶帯を受ける先輩の十人組手である。これは黒帯の先輩と十人連続で組手をするのだ。それも真剣な組手である。真剣というのは、相手を倒しにいく組手ということ。いつもの稽古でやっている軽いスパーリングとは、まったくの別物である。こうした組手を生で見るのは、自分にとっては完全な初体験、正直ビビった。


黒帯の先輩が繰り出す突きや蹴りには、遠慮や加減といったものが一切ない(もしかしたら、それでも加減はされていたのかもしれないが、初心者の自分にはそこまでのことはわからなかった)。あれを一発だけでもまともにもらったら、明らかにケガするようなレベルの攻めである。


しかもわが空研塾は掴みありだ。すなわち相手の道着を掴んで、ひき倒す。姿勢を崩して蹴りを入れる。さらには倒れた相手に対しても、決めの技を入れにいく。それも本気で。後学のためにと一緒に連れて行っていた息子もちょっと固まっていた。


それぐらいの激しさなのだ。その激しさは昇段審査、つまり黒帯を受ける先輩たちの審査になってさらにエスカレートした。黒帯審査の前に、まず塾長がひと言。「これは審査なのだから、相手をする方は倒しにいくつもりでかかるように。手加減をしては、審査を受ける側にかえって失礼である。お互いに全力を尽くすように」などといわれる。さらにビビる。


黒帯の審査は、5人組手である。茶帯が十人なんだから、その半分だったら楽じゃないの、などといえるような内容では決してないのだ、これが。何しろ一人ずつ組手のルールが変わるのである。一人目はノーマルなフルコンタクトルール、二人目は掴みあり、三人目は掴みから投げまであり。そして四人目、五人目はヘッドガードを付けての組手となる。すなわち顔面攻撃あり、ということだ。四人目は普通に顔面あり、そして最後がキックボクシングルールというか、首を持っての投げまでありという過酷なルールとなる。


先輩方がときおり、ヘッドガードを付けて稽古されているのを見ていたが、それはこの組手に備えたものだったのだ。もちろん、当時自分が顔面ありの組手をすることなどあり得ない話で、だからそれがどれほど恐ろしいものかはまったく想像できなかった。しかし、普段あれほど強い先輩たちが、顔面ありのエキスパートみたいな先輩にはボコボコとどつかれたりする様子を見ていて、これは大変な審査だと心底思った。


相手をされている兄弟道場から来られている先輩の中には一人、どうも組手が始まるとスイッチが入ってしまう方もおられるようで、それはなかなかに凄惨なシーンが目の前で繰り広げられたのだ。


帰り道「お父さん、空手って恐いねんな」とつぶやいた息子のひと言は、まさに私の心の中を代弁する言葉でもあった。そして通常の稽古では、いかに先輩たちが「激しく」手加減してくれているのかをも思い知った。まあ、審査なんて自分には関係ないしと自分に言い聞かせながら家路についたのだった。



昨日のI/O

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