Amazonと開高健

atutake2008-08-25



『人とこの世界』というインタビュー集がある


正確にはインタビュー集ではなく「文章による肖像画集と呼ぶべき性質のものかと思う(開高健『人とこの世界』中公文庫、1990年、337p)」


開高健が亡くなって、すでに20年近くが経つ。とはいえ少なくともその名前ぐらいは間違いなく学生時代に聞いたはずだ。なにしろ釣り紀行の『オーパ!』シリーズが一世を風靡していたのだから。また開高健といえば弱冠27歳にして『裸の王様』で芥川賞を取ってもいるのだ。


開高さんが芥川賞を取ったのと同じ歳に私は印刷屋をやめて、コピーライターになるべく修業を始めた。デザイン事務所に拾ってもらい、社長の知り合いだったコピーライターのオフィスに丁稚奉公に行かせてもらった。その事務所で開高健さんと出会った。氏が亡くなられる直前のことだ。


修業に行った先にはちょうど一回り年上のライターがおられた。学生運動が激しかった京都でも、バリバリの活動家だったその人は、卒業後そのままフリーライターの道へと進まれた。コピーライターなる職業が脚光を浴びるはるか前の話だ。


おそらくはものすごく苦労し、その過程で書くことに対してものすごいこだわりを持たれたのだろう。その先輩からは、テン、マルの打ち方一つでも文章のリズムやニュアンス、さらには意味さえも変わってしまうこと、形容詞はできる限り使わないで書くことなどを教わった。そして推敲が終わったと思ってから、もう一晩、原稿を寝させよとも。


そして「これを読め」と渡されたのが、開高健氏のコピーライター時代の作品を集めた雑誌の特集だった。そう、開高健氏もスタートは、サントリーの専属コピーライターである。トリスのコピーなどに有名な作品もあるが、正直なところ当時はピンと来なかった。私が修業を始めた頃は糸井重里仲畑貴志の全盛期であり、開高流テイストはちょっと時代の波からは違ったところにあったのだ。


そして20年が経ち、再び開高健と再会することになった。どこかに開高氏が実はインタビューの達人であったこと、さらにインタビュー原稿の究極の姿が『人とこの世界』という書物に結実していることが書かれていたのだ。これはまさに今の自分の関心のど真ん中にフィットするテーマである。


こんなところで回り回って、再び開高先生と巡り会うとは思わなかった。ところが少し探してみると『人とこの世界』は、残念ながらすでに絶版となっている。そこで頼るはAmazonさんである。ここに行けば古本でも手に入るかどうかはすぐにわかる。


もちろん20年前も、そして今でも古本屋さんに行って探すことはできる。どうしてもなければ図書館に行って借りてくる作戦も選択肢の一つではあるだろう。しかし、そのためのコストがどれぐらいになるか。


仮に古本屋で探すとする。家からいちばん近いブックオフまでクルマで片道約20分、そこで探す時間が(見つかることを前提として)10分ぐらいだろうか。めでたくブックオフにあったとしてトータルコストは、本代が300円(Amazonではこの値段だった)、ブックオフまでのガソリン代が300円ぐらい、そして往復で約1時間かかったのだから、その分の時間給が○○○○円ぐらい。時間給は実際にかかったお金ではないとはいえ、コストとして換算すれば結構な出費となる。


これがAmazonさんなら、検索一発(5秒ぐらい)、注文一発(5秒ぐらい)でおしまい。コストは本代同じく300円として、プラスは運賃の350円で済む。さすがに10秒ぐらいの時間給は計算する必要もないだろう。


実はこうした絶版本や古本を手に入れるツールとしても、Amazonは極めて使い勝手がいい。しかもAmazonの凄さは、こうした取引に関わるすべての参加者に何らかのメリットをもたらすシステムを提供していること。すなわち出品者、本を求めている私、そしてAmazonさんは言うまでもなく、本を届ける物流業者さんもメリットを得ている。


ということで手に入れた『人とこの世界』である。まわりはかなり日に焼けていて、ページもくすんでいる。が、その文章はすごい。文章と文章のつながりと飛躍の妙、まさに言いたいことが目に浮かぶ比喩の使い方。人の話の聴き方、引き出し方、それを文章にまとめる技、今さらながらでは歩けれども、こうした本と出逢えたことを何かのきっかけにしないと。



昨日のI/O

In:
『人とこの世界/開高健
『日本景 伊勢/藤原進也』
『夏の流れ/丸山健二
Out:


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昨日の稽古:

レッシュ式腹筋、拳立て、懸垂