格差とマレーシア


コールセンターはマレーシアに


日本エフ・セキュア社の話である。人件費の安い海外にコールセンターを持っていくのは、もはや常識となっている。インターネットの普及によって通信コストが劇的に下がったことが、大きな要因だ。


だから、たとえばパソコンの調子が悪くてサポートセンターに電話をしたとする。すると、電話がつながっている先は中国(大連が一大拠点となっているらしい)とかインドといったケースもよくある。もちろん現地の人に日本語教育とサポート対応教育をしっかり施しているから、あからさまにおかしな日本語で対応されるなんてことは滅多にないはずだ。とはいえ、注意して聞けば微妙にイントネーションやアクセントが変なことに気づくだろう。


フィンランドのセキュリティー対策ソフト会社エフ・セキュアの日本法人日本エフ・セキュアも、このたびコールセンターをマレーシアにある開発拠点内に新設することになった。


という記事が日経産業新聞(2008年8月27日付)にあって「ふ〜ん。マレーシアにコールセンターかぁ」と読み流していたら、めっちゃびっくりすることが書かれていた。


なんと

日本語によるサポート品質を維持するため、現地ではなく国内で日本人を採用しマレーシアで雇用する形態にする。生活費などが安いため、現地の給与水準で人員を確保できるとみている(前掲紙)


最初、読んだ時には、書かれていることの意味がよくわからなかった。要するに同社はコールセンターのコストパフォーマンスを上げたいわけだ。そこでコストを下げ、しかもパフォーマンスを高めるためにはどうすればいいかを考えた。その結果出てきた答が「日本人を国内で採用してマレーシアに連れていく」だったのだ。


日本人を海外の拠点に駐在させるのは、何も今に始まったことではない。商社もメーカーもずっと前からやっていることである。が、日本エフ・セキュア社がやろうとしていることは、こうした従来の日本企業が行なっていた海外駐在とは、決定的に違う。何が違うのかといえばコスト感覚が,恐ろしいほどに異なっているのだ。


商社やメーカーが海外に人を派遣すれば、本給に加えて少なくとも駐在手当がつく。企業によって異なるだろうけれど、たとえば一流商社なら住宅は日本人向けの高級マンションで、派遣先の治安状態によっては送迎のクルマも運転手付きで用意し、お手伝いさんを雇ってくれるケースもある(もちろん一流商社とはいえ役職によって待遇は変わってくるけれど)。


ところが日本エフ・セキュア社は、現地の給与水準で人員を確保するつもりなのだ。これって、どういうことなのだろうか。


そりゃマレーシアと日本では物価にはたいへんな差があるだろう。よくわからなないけれど、たぶん一日分の食費だけなら日本円で500円もあればお釣りがくるのではないだろうか(アルコール代は別として)。住むところにしても、出張ベースではなくそこに滞在するのだから、ホテル(安いところを長期契約で借り切る)とか現地アパートを契約すれば、一ヶ月1〜2万円ぐらいで収まる可能性はある。


とすれば一ヶ月の生活費はざっと5万円ぐらいで抑えられる。そしてここから先はあくまでも推測だけれども、仮に給料を12万円ぐらい出すと言えばどうなるか。毎月少なくとも7万円は貯金できることになる。


年間80万円(うまくいけば100万円ぐらい)貯められることに魅力を感じて「よっしゃ、1年マレーシアでがんばってみようやないの。あご足付きで外国に行けるっちゅうのも、これは儲けもんやで。どうせ、日本におってもええことなんか何にもないねんし」と考える人がいても不思議ではない。


というところに目を付けた日本エフ・セキュア社は、鋭いというか、うまいというか、ずるいというか。通信コスト環境のドラスティックな変化、海外との物価レベルの差、そしてある意味では格差社会化している日本の状況を見事にマッチングさせて出てきた戦術といえなくもない。


このやり方、意外にいろんな企業に応用が利くのではないだろうか。


昨日のI/O

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フューチャベンチャーキャピタル川分社長インタビュー
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昨日の稽古:

懸垂、レッシュ式腹筋