美しい文字の書き方

atutake2008-10-02



漢字の極意は一文字にあり


「永」をきれいに書けるようになること。これで少なくとも楷書は、そこそこ見られる漢字を書けるようになるという説がある。なぜなら「永」の一文字には書道で必要な八つの技法がすべて含まれているからだ。これを以て『永字八法』という。


八つの技法とは、点、横画、縦画、横画や縦画からのはね、斜め右上のはね、左はらい、短いはらい、右はらいである。つまりあらゆる漢字は基本的に、この八つの要素に分解されるということなのだろう。漢字のすべてを調べたわけではもちろんないが、言われてみればなるほど当たっているようだ。


確かに「永」には、漢字を書く上で必要な技法がすべてふくまれているようだ。とはいえ「永」だけを繰り返し練習すれば、必ずきれいな字を書けるようになるかといえば、それは違うだろう。なぜなら、書いた文字が美しく見えるかどうか、は各パーツの書き方だけではなく、全体のバランスも重要なはずだから。たとえば目の形が完璧で、鼻筋もしゃきっと通っていて、唇も魅惑的であるにも関わらず、全体としてみればどうしても妙な顔に見える人がいるように、文字だったパーツの完成度だけではなくて全体的なバランスが大切だ。


では、永字八法を身に付けた上で、本当に美しい漢字を書けるようになるためには、どうすればいいのだろうか。


何でも空手に引きつけて考えるわけではないが、文字を書くのもある意味、身体動作である。だから、たぶん空手の技を修得するのと同じやり方が役立つと思う。これを称して「像・理・熟」という(いま思いついた言葉だけれど、なかなかカッコいいと思いませんか?)


すなわち、まず「像」とは、どんな文字が美しいのかを自分の頭の中にビジュアルイメージとして描くことである。たとえば「篤」という文字を書くときに、その理想像をイメージできるかどうか。そもそも、このイメージがなければ「篤」という文字の美しさの基準が自分にはないわけで、それでは美しい「篤」など書けるはずもない。理想の完成形を思い浮かべることができるかどうかは、きれいな文字を書く上で決定的に重要なのだ。理想像を頭の中に焼き付けるための方法は、きれいな文字をたくさん見ること。これしかないだろう。


話はすっ飛ぶが、美しい漢字を見たければ、ともかく上海博物館の3階だか4階だかにある書の展示室の楷書コーナーに行くべきだ。漢字とは、かくも美しい文字であるかと心揺さぶられる思いがし、その後はいくら見ていても飽きることがない(他に美しい楷書を展示してある博物館、美術館をご存知の方がおられれば、ぜひ教えてください)。


閑話休題
像を自分の中にしっかりイメージできるようになれば、次は「理」。その美しい文字の姿が、どのような原理に基づいて生み出されているのかを理解することである。ここで役立つのが「永字八法」だろう。一つの文字をその構成要素に分解し、さらにそれぞれのパーツがどのようなバランスで成り立っているのかを自分なりに解釈する。これにより「像」もよりしっかりと定着する。


ちなみに空手にたとえるなら「像」とは師や先輩、先達の動きをしっかりと見ることである。美しく見える動きとは、理に適った動きであり、無駄のない動きである。基本であれ、移動であれ、型であれ、名人上手の動きは例外なく美しい。美しく見える一連の動作を細かく分析し、たとえば動く時の足の向きはどうか、膝の角度はどうなっているのかなどときめ細かく見ていくことが空手における「理」になる。


このようにして「像」と「理」を自らのものとできれば、最後は「熟」である。自分の動作が理に基づいた動きとなるよう、つねに理想像を意識しながらひたすら稽古する。そうやって文字を書く動作を自分の体の動かし方の一つとして習熟させる。この作業はおそらく、誰もが知らず知らずのうちに身につけてしまっている自己流の体の偏った動きを矯正することとなるだろう。


たとえばペンの持ち方一つとっても、人により何らかのクセがあるのではないか。一方で古来より習い伝えられてきた持ち方には、やはりそれなりの「理」があるはずで、まずはその型に自分をはめてみることが必要なのだ。考え方は「序破離」である。人は誰でも必ずと言っていいほど、自分にとって楽な体の動かし方をするように生まれついている。それがその人の偏りである。これをいかに矯正するかが、空手でも極めて重要なポイントとなる。同じことが文字を書く動作にもいえるのだと思う。


そして、そんな面倒なことをしてまで、なぜ美しい文字を書きたいのか。原点にあるべきは、自分を含めた読み手への思いだろう。伝えたい気持ち、考えがあるからこそ、それを届ける道具としての文字をわかりやすく、読んで心地よい姿に整える。この気持ちがなければ、それこそ画龍点晴を欠くことになる。



昨日のI/O

In:
Out:

メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「ケータイで完結させる」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
「勝ち馬(=Google)に乗る」
http://www.insightnow.jp/article/2087

昨日の稽古: