なぜスタバはダメになったのか


前年同月比既存点売上高9%マイナス(日経産業新聞2008年12月8日付9面)。


スターバックスの業績が落ち続けている。といってもアメリカの話で、日本スタバの業績は売上高で前年同期比7.4%アップである。ただし営業利益は▼27.2%とガタガタだ(→ http://www.starbucks.co.jp/content/20081114_01.php)。ともかく今のスタバには少なくとも以前のような魅力を感じられない。そんなことありませんか?


記事によれば、アメリカでの不振の要因として価格の高さが挙げられていた。そりゃ当然だと思う。スタバのコーヒーはもとから値段が高かったのだ。ただしちょっと高い代わり支払う価格に見合うだけの価値を得られることが差別化ポイントだったのだから。


そのちょい高め価格にバランスする価値をひと言で表わすなら『街中でほっとくつろげるひと時』だろう。そもそもコーヒーショップは、そうした一種の『句読点』のようなスペースとしてスタートしたはずだ。極端な話コーヒーは添え物でも構わない。といえばパリはサンジェルマン・デ・プレあたりのカフェが、そのシンボルだ。


こうしたスペースはアメリカにはなかったのかもしれない。日本なら喫茶店がそれに類した場なのだろうが、そこには(パリのカフェのような)文化の薫りがない。その間隙を突いたのがスターバックスだったはずだ。つまりスタバの魅力は、コーヒー+アルファの一種スノッビーな雰囲気にあった。


当初のスタバには、オフィス街の喫茶店にたむろしているオッサンサラリーマンは決していなかった。なぜなら彼らが好んで読むスポーツ新聞を置いていなし、そんなものを読むことは憚られる雰囲気があったから。あるいは、マシンガントークを炸裂させるおばさんたちもいなかった。なぜなら、スタバには大きな声でしゃべりまくることができない一種厳かな空気があったから。


しかもコーヒー自体の味までが、それまでの喫茶店とは明らかに一線を画していたのだ。下手な喫茶店なんかに入ったら、何回も温め直したためにとんでもなくいがらっぽいコーヒーを飲まされるリスクがあったのに対して、スタバのコーヒーはいつ飲んでも安定して独特の美味しさがある。


マーケティング的に分析するならスタバは、美味しいコーヒー&独特のアトモスフィアがプロダクトであり、だからこそやや高めのプライス設定にも『スタバが狙ったターゲット』は納得した。そう、スタバは当初、セグメント・ターゲット・ポジショニングを厳しく決め込んでいたはずだ。


しかしスタバのモデルが成功し、人気を集めるに連れて自己崩壊が始まる。株式公開し、常に成長を求める株主からの圧力がかかったことも崩壊を加速させた要因だろう。


まずスタバが注目され、人気を集めること自体がそもそものスタバモデルから考えれば自己矛盾である。人気が出れば客が集まる。当たり前である。客が増えれば、本来スタバが狙っていたターゲットとは異なる客も混ざってくる。そうなればスタバのコア・コンピタンスともいえる独特の雰囲気が損なわれる。


さらに雰囲気を悪化させたのが、席数を増やしたことだろう。初期のスタバを覚えている方の目には、今のスタバは別物と映るのではないだろうか。ゆったりとくつろげるソファ、隣の席との空間の取り方、そうしたゆとりは今のスタバからは失われてしまっている。だって、せっかくたくさんお客さんが来てくれるのだから、それを取り逃がすてはない。と、もしスタバが考えたのなら(たぶんそうだと思うけれど)それも自殺的行為である。


そして株主からは常に成長圧力がかかってくる。すると本来、スタバが出店すべきではない立地にも店を出さざるを得なくなる。これが飲食業の悲しいところで、どんなにがんばってみても一店あたりの売上は店のキャパを超えることはできないのだ。だから成長し続けるためには、基本的に出店し続けるしかないのである。


あるいは客単価を上げる戦略もある。コーヒーにプラス一品、たとえばサンドウィッチなどを頼んでもらえば良いわけだ。実際、今のスタバにはそのてのフード系メニューも充実している。しかし、である。仮にコーヒーとサンドウィッチを頼むとあっさり700円ぐらいになってしまうのだ。これはいくらなんでも高くはないかい。


つまり今のスタバに人気がないのは、価値/対価のバランスが崩れていることが原因だろう。言い換えれば人気が落ちて当たり前なのだ。おそらくはマクドナルドのコーヒーが美味しくなった(とアメリカでは言われている。個人的にはそうは思わないけれど)ことも、スタバのコストパフォーマンスを低く感じさせる要因となっているかもしれない。


ということはスタバが今やるべきは不採算店を閉めることではなく、もう一度スタバがスタバであった価値の原点を復活させるか、STP(セグメント・ターゲット・ポジショニング)を再設定した上で新しい業態を開発するか。選択肢はこの二つしかないと思う。


昨日のI/O

In:
スタッフインタビュー
Out:
帝塚山大学・北浦かほる教授インタビュー原稿


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昨日の稽古: