ドルばらまきモデル


2年間で7500億ドル


景気対策アメリカが突っ込む予算である。日本円にして約70兆円強。日本の国家予算のほぼ1年分に相当する。これだけやっても今年、アメリカの景気がどうなるかわからない。景気を回復させるためなら、何でもやる。オバマ新大統領の宣言である。いま全世界がアメリカ復活を固唾を飲んで見守っている。であれば、これぐらいの打ち上げ花火はぶち上げてもらわないと困る、とやはり世界中の誰もが納得している。のだろうか。


確かにアメリカの景気が戻らないことには、全世界のダメージが回復しない確率は極めて高い。とりあえず北米市場に頼っていた日本の自動車メーカー、家電メーカーは軒並みとんでもない売上ダウン、利益ダウンに見舞われている。その率、平均して30%ぐらい。あり得ないダウン率だろう。これまでの内部留保があり、さらには人件費をある程度変動費化できているからこそ(要するに派遣の方々を使っているからこそ)何とか08年度決算は乗り切れるかもしれない。


だが、これがあと何年も続くとしたら、どうなるか。毎年利益が30%も落ち込んで、耐えきれる企業などまずないといってもいいのではないか。だから、何としてもアメリカには復活してもらわないと困るのだ。


あるいは今や世界一の米国債保有国となってしまった中国だって大変である。万が一,米ドルが暴落でもしたら中国は国が保たなくなるリスクだってある。抱えている米国債は時限爆弾みたいなもの。こいつだけは絶対に破裂させられない。加えて中国の景気もアメリカの購買力が頼みの綱。だから何が何でもアメリカには立ち直ってもらわないことには困る。


はたまた、産油国だってこのまま景気が落ち込んでいると、保たなくなる国が出てくる。この間の株式下落率がもっともひどいのはロシアだ。原油バブルに一時浮かれたこの国も、原油価格が最高値の4分の1ぐらいに急激に落ちて今や青息吐息である。


というところで、とりあえず世界中の誰もがアメリカの復活を待ち望んでいる。お膳立てはできているのである。


そこに颯爽と登場するオバマ氏は、アメリカ初の黒人系大統領である。やっぱりアメリカはいい国、アメリカンドリームの生きている国なんだと思わせるに十分な役者である。その弁舌はさわやかにして、ブッシュさんのような頑ななイメージもない。年も若い。そのオバマ氏が大金を注ぎ込んで景気回復のために何をやるのか。


グリーン・ニューディール』である。こういうネーミングのうまさにアメリカの巧みさを感じる。誰もが反対しようのないコンセプトを、キャッチーな言葉で表現している。内容は、環境対策を軸とした経済のてこ入れであり、雇用創出である。ブッシュ政権になって以来、無視してきた温暖化対策に真剣に取り組むのだ。非の付けどころのないデビューといっていい。ただ一点の懸念を除いては。


問題は、恐らくはオバマ氏が展開するに従って、それこそバブルのようにふくれあがるに違いない米国の巨大な赤字を、一体誰が支えるのか。『グリーン・ニューディール』こそは、アメリカの新たなインチキになりはしないか。


振り返れば1971年が、アメリカンインチキがスタートした年だ。それまでドルは金といつでも交換できることによって、その価値を担保してきた。もちろん金に価値があると認めることも、幻想に過ぎない。しかし、ともかく最後のよりどころとして、ドルはいつでも金と交換できたのだ。


これをやめる。ということは、米国はドルを好きなだけ刷って使えることを意味する。ドルは国際基軸通貨である。世界中どこででも使える。とても便利で使い勝手がいい。から、みんながドルを欲しがる。北朝鮮だってドルを欲しがった。たぶんアルカイダだって武器購入の決済にはドルを使っているはずだ。需要と供給のバランスが崩れない限り、アメリカはドルを印刷し続ければいいわけだ。まったく打ち出の小槌である。


そのドルを使ってアメリカは世界中からモノを買い上げた。パックスアメリカーナ、これにより国内製造業は今回のビッグスリー事件が象徴しているように、あるいはGEがそのルーツともいえる家電部門を切り捨てたように、とどまるところを知らないぐらいに疲弊した。


だから次にアメリカは『ITが生産性を著しく高める』という神話を創造し、これがグローバルスタンダードたと世界に触れ回った。そして自国の基軸産業を、自分たちが最も得意で進んでいるIT金融分野にシフトした。これってとっても都合のいいマッチポンプじゃないのかというぐらいに見事な仕掛けである。


その行き着く先が、今回のサブプライムローンなのだろう。これこそは堺屋太一氏曰く

サブプライムローンは「構造詐欺」ともいえる巧妙な仕組み(日本経済新聞2008年12月31日付朝刊29面)

である。誰がババを引くのかわからないけれど、ババを引いたら確実にそこが吹っ飛ぶという究極のババ抜きゲームだ。


どさくさ紛れに、著名な投資家がねずみ講をやっていたりもした。少し前に大騒ぎされたエンロンなんてかわいいものだ。とはいえ、さすがにサブプライムばかりは、タガを外しすぎたというか欲を膨らませすぎたというか、とうとう誰にも収拾をつけられなくなってしまった。


そこで登場したのが、期待感あふれるオバマ氏というわけだ。が、アメリカという国の基本的なビジネスモデルが変わらない限り、いずれまた世界中でババの押し付け合いが起こらないとも限らない。もちろんそうならないことを祈る。オバマ氏が、本当に期待の星から世界の救世主となってくれることをひたすら祈る。もはや、それしかないのだから。




昨日のI/O

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カクヤス佐藤順一社長インタビュー
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