CMは社員で作ってYouTubeで流す


「わたしたちをこえてゆけ」


以前、勝手CMをご紹介したZ会(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20080626)が、またオモロいことをやってくれた。冒頭は、そのメッセージコピーだ。


何がおもろいか。エキストラに社員を使っているところ。相当な数の社員さんが登場している。ふむ、CMに社員が登場するだけだったら、これまでにもあったかもしれない。だが、Z会は従来のCM社員登場企業とは決定的に違う。違いは社員のノリだ。


百聞は一見に如かず。まず、こちらのCMを見ていただきたい。
http://oya-zkai.jp/movie/index.html


登場されている社員の皆さんが、ごく普通でありながらものすごく楽しそうではないか。だから素直におもろいじゃないか。ということは自然に共感してしまっているじゃないか。その結果、メッセージがぐさっと刺さってくるじゃないか。


なんでやろ?


いろんな要素が絡んでいるのだろうけれど、個人的には仕掛人(プロデューサーとも言う)の力が大きいと踏んでいる。寺西さんという。Z会でウェブ関係を仕切っているお方である。のみならずウェブ関連ではいろんなところに出没されている。もちろん、上記のCMにも後ろの方でちょろっと映っている(寺西さんを知らない人が見たら、どこにいるのか絶対にわからないような映り方である。って、何を言ってるのかよくわからない文章だけれど)。


前回紹介したZ会勝手広告を仕掛けたのも、この人だ。ともかく発想がユニーク、枠に捉われない。といってただ好き勝手をやっているのではもちろんない。すべてはZ会という企業にとってネットを使って『いま、なにを、どう』やれば、もっとも効果的かが考え尽くされている。ここが絶対にぶれない。


さて、今回の動画広告でZ会がアピールしているメッセージは何か?


Z会には仕事を楽しんでいる人がたくさんいる(あるいは、Z会の社員はみんな、仕事を楽しんでいる)ということだろう。これはZ会にとって決定的に重要なメッセージとなる。なぜなら、Z会の商品は人だから。そもそも、およそすべての教育産業にとっての第一義的な商品は『人』だと思う。


教育は人を通じてしか成就しない。教育とは「教え・育む」と書く。どちらも他動詞である。誰かが誰かを教え、育むのだ。そのための方法論はいろいろある。さまざまなツールが使われもする。しかし、根幹に存在しなければならないのは『人』なのだ。


だからZ会では、どんな『人』が、何を考え、どんなふうに仕事をしているのかを伝えることが決定的に重要なのだ。『人』を伝えるために作られたのが、今回の動画広告だと思う。


だから必然的にCMの作られ方とその流され方が、決まったのだろう。従来のCM制作文法に則った企画構成と演出ではダメなのだ。それでは社員の素の姿が表現されない。


テレビというマスメディアを使うのであれば、そのルールに従わざるを得ない。放送局の自主規制があり(といって、今回のZ会のCMが規制に引っ掛かる内容となっているわけではない)、代理店サイドの干渉(企画・提案という外見を取るが、実際にはいかに制作過程でカネを取るかという論点から組立てられる)を受ける。そうしたフィルターを通さずにはオンエアすることはもちろん、コンテンツさえ制作できない。これまではそんな神話がまかり通っていたのだ。


しかし、メディアの世界ではすでにパラダイムシフトが完了しているのだ。うまくYouTubeを使えば、テレビ以上の露出効果を上げることも決して不可能ではない。むしろマスではなく、絞り込まれたターゲットに深く届く可能性を秘めているのがネットである。


さらには技術の発展がコンテンツ制作のハードルを著しく下げた。となれば問われるのはアイデアである。幸い寺西氏は神酒大亮氏というすばらしく才能にあふれた人材を確保している。プロデューサー寺西氏とクリエイター神酒氏のコラボレーションが、今回の見事な動画広告として結実したのだろう。


では、こうしたZ会のような広告は、普通の企業では作れないのだろうか。決してそんなことはないはずだ。制作に関するミニマムコストはかかる。が、マスメディアに支払う(捨てるともいう)膨大な放映料も、代理店に落とす(ぼったくられるともいう)企画料も不要。おそらくは従来のCM制作・放映コストと比べて、ゼロが二つは少なくて済むのではないか。


神酒氏のような作家(探せば、たくさんいるだろう)と、ヤル気のあるプロデューサー(社長ががんばればいい)がいれば、Z会のようなCM作りはきっとできる。そして、がんばっている社員がいることをアピールできれば(社員がそうしたモチベーションを持つようになれば)、その企業は強い。そんな企業像を、今回のZ会広告は見せてくれたのだと思う。


だから冒頭のメッセージは受験生に向けられたものではあるが、このCMをみたすべての企業人に対して向けられたもの、とも読める。すごいっすよ、寺西さん。



昨日のI/O

In:
プロパティデータバンク社取材
Out:
綾戸智恵さんインタビューラフ原稿

昨日の稽古: