1勝2敗4継続


もう4年ほど前の話。東京のイケイケベンチャー企業7社をピックアップして各社社長の日替わり対談ブログを書く、という仕事に8ヶ月ぐらい関わったことがある。ベンチャーブームがまだ華やかに続いていたころで、ホリエモンの絶頂期でもあった。


7社のうち当時すでに上場していたのが3社、取材期間中に上場を果たしところが1社、上場を目指していたのが2社で「うちは絶対に上場などしない」と言っていたのところが1社あった。それから4年経って、どうなったか。その結果が冒頭の数字である。


倒産1社、倒産こそ免れているものの上場廃止が1社。一方で飛び抜けて成長しているのが1社というわけだ。売上の伸び具合、事業内容の斬新さ、話題性などあらゆる面で断トツの好成績を挙げているのが「絶対に上場などしない」と強調していた社長さんのところ。


ときに各社長さんに対しては、毎月取材テーマをきっちり決めて話を伺った。よくあるパターンだけれど、最初は生い立ちから始まり、起業までの苦労話、仕事術、ネットの使い方、プライベート(はほとんど話してもらえなかったけれども)、危機管理、マーケティング戦略に企業管理法など根掘り葉掘り、毎回1時間ぐらいきっちり突っ込んで話を聴いた。


社長さんの年齢は若い人で20代後半、上が40過ぎぐらい。時代の追い風が吹いていたこともあって、特に上場組、上場予備軍はイケイケムード満点だったのだ。その中でも変わっていたのが上場拒否の社長さんである。


彼はとてつもない読書家だった。一回本屋に行くと軽く5万円ぐらいは買いこんでしまうと言っていた。一体、どんな本を読んでいるのかと尋ねると、返ってきたのは、気になるテーマに関する本を集中的に買うのだと。たとえば『経験マーケティング』が流行っているなら、それに関する本やムック、雑誌など目についたものを手当り次第に買う。


そんな話を聴かされれば、こちらとしては当然、そんなにたくさん買って全部読めるのかと突っ込むことになる。彼は「読む」のである。といってもすべてを端から端まできっちり読み込むわけではない。最初に何冊か入門書的なもので当たりをつける。すなわち自分の頭の中に地図と引き出しを用意するのだ。地図とは、そのジャンルに関する自分の白地図である。その上で大まかな内容に応じてこの先読む本から得られる知識をいれる引き出しを作る。


それ以降は、手に取る本の目次をざっと眺めて「これは今まで読んだ本になかったことやな」ポイントだけを精読する。この読み方で5万円分ぐらいの本をざっと読めば、その分野の知識を仕事に活かせる『知恵』レベルにまで持っていける。そう教えてくれた。


ところで、その社長さんの会社が成功している理由は、きっちりと王道に乗っていることことに尽きる。いわゆるマーケティングの鉄則(もう何十年もかけて検証されてきた理論の中には、間違いないセオリーがいくつもある)を踏まえた手を打っているのだ。滅多にリスクを取らないので、そのビジネススタイルは地味と言ってもいいぐらいのもの。とはいえ実際にやっていることは、とても派手で華々しいのだけれど。


これに対して、残念な結果に終わってしまっ経営者の方たちは、何といっても忙しすぎたのだと思う。彼らにも同じように、どんな本の読み方をしているか、何を読んだかと尋ねたのだが、返ってくるのはせいぜい1冊か2冊。それも、その頃流行っていた本(決してビジネス系とは言えない)が多かった。


本を読む時間があったら、人と逢わなきゃ、とか人脈を広げるためにいろんな会合に出なければ、と考えていたのだろう。中には毎晩、付き合いで飲みに出かけている社長さんもいた。


飲んでいたから会社がダメになった。飲まずに本を読んでいたから成功した。そんな単純な話ではない。要は自社の将来について、どれだけ恐怖心を抱いていたかがポイントなのだと思う。


本を読んでいる社長は、夜の付き合いをほとんど断っていた。そして毎日、朝の4時ぐらいまで本を読むと語っていた。本を読みながら、自社の行く末をシミュレーションしているのだという言葉が印象に残っている。つまり本を自分が考えるキッカケとして使っていたというわけだ。


もちろん、酒を飲みながらでも経営のことを常に考えている人は、たくさんいるだろう。飲んだら考えられない、と決めつける必要もない。とはいえ素面と酩酊では、やはり思考の質が異なるのではないか。自分自身を振り返ってみても、飲んだら読めない。本の内容についていくだけの思考能力がない。


そうはいっても飲みたい。けれどもしっかりといろいろ考えたい。悩ましいところである。



昨日のI/O

In:
『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』神永正博
Out:
某社情報誌・企画趣意書

昨日の稽古: