出雲よいとこ一度はお出で




えんがわの炙り110円


取材で出雲市を訪れた。確か、ここに来るのは3回目。学生時代にバイクで来て(出雲大社にお参りして彼女できますようにとかお祈りしましたけど)、5年ほど前に印刷会社さんの取材に来て、そして今回は島根大学医学部さんの取材である。


大阪から島根までとなると、さすがに交通費もバカにならない。従って取材に同行する人もなく独りぼっちである。ひとりで困るのが晩飯だ。


ニーズははっきりしている。美味しいお酒を飲みたい、とこれに尽きる。ところが、このささやかな望みを叶えるのが意外に難しい。何しろ美味しいお酒を飲むためには、つまみもそれなりじゃないといかんのである。もちろん、店の雰囲気だって重要な要素だ。一見さん、よそ者はちょっと来んといて的なムードを漂わせている店で飲む酒など、ちっともうまくない。


しかも、こちらは一人者である。できればカウンターで静かに、でも時には少し声をかけてもらい、とはいえ、しつこく話しかけるでもなく、といった案配が好ましい。だから、そこそこにほかのお客さんが入っていないといかんわけだ。


そして、最後に一つ、決定的に重要なのがコストである。そりゃカネさえ出せば、よりどりみどりなのかもしれないが、こちとら、残念ながらそんなぜいたくのできる身分じゃない。できる限り費用は抑え、しかしパフォーマンスは高くが望みである。ね、難しいでしょう。逆にいえば、そんなお店をいかに見つけるかが、知らない街を訪ねた時の楽しみでもあるわけだけれど、さて。


こんへんに確か、前来た店があったはず。と思いながら駅のまわりを少し歩く。何となく見覚えのある風景で「そや、そや、ここ来たで」と思い出した店は、いずれも閉まっている。う〜む。ここまで来たんやからと気を取り直して、もう少し足を伸ばしてみた。商店街らしきところに出たのはいいが、これが見事なまでのシャッター通りだ。



ほとんどの店のシャッターが閉まっている。なんだけれど、なぜかBGMにはストーンズが鳴っている。まさに「I can‘t get no satisfaction」的状況だ。所々、空いているお店もあるにはあるが、ちょっと入るのに勇気が必要な空気を醸し出している。こりゃだめだと引き返し、さんざん迷った末、駅にあるお寿司屋さんに入った。表にある値書きを見ると、とりあえず安い。まあ、安かろう悪かろうでも諦めがつくなと半分白旗掲げたような気分でのれんをくぐっって見てビックリ。


なんと回転寿司である。しかも客がいない。正確には私が店に入ったときに、女性客がひとり、まさにお勘定を済ませて出て行くところだった。あれま、これは大失敗かもと思ったが、仕方がない。店員さん(なのか店長なのか、バイトなのかわからないが)と目が合って「どうぞ、お好きなところに」と案内されては、今さら店を出るわけにいかんじゃないか。


しゃあない、ビールが冷たかったらそれでええわ的覚悟を決めて、黒板に書かれた「本日のお薦め」を頼んでみる。まいか、生よこわ、いさき、まはた。知らんぞ「いさき」とか「まはた」とか。しかも、まいか以外は一貫である。これが110円、そうなの、と思いながら口に入れてたまげた。うまいじゃないか。


えっ、えぇ〜、みたいな感じである。何でも握りますからなんて声をかけられたので、えんがわとえんがわの炙りを頼んでみた。えんがわは大好物である。そして、えんがわの炙りなるものは、未だかつて食べたことがない。えんがわ、うまいじゃないの。そして、えんがわの炙りを食べて絶句しました。


いや、これはすごい。えんがわを炙ることで、えんがわ本来のうま味がすべて活性化されるようだ。しかもほくっと身がとろける。ただのえんがわとは、まったく違った絶品である。信じられないぐらいうまい。あまりにうまいので、続けてえんがわの炙りばかり4皿食ってしまった。


そして、これがまた冷酒と合うのだ。地元の何とか酒造の冷酒、きりっと冷えていて、吟醸香がほのかに漂ううま口である。すし飯と合うのは米の酒、寿司ネタを引き立てるのも米の酒。焼酎はもとより外国の酒ではこうはいかない。うまい、うまいと大粒イクラ、ホタテの炙りを食べ、最後は鉄火巻き。そして、締めはお約束のシジミ汁である。


これで3000円ちょい。出雲恐るべし。またすぐ、帰ってくるからなと誓った出雲市駅の夜であった。



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昨日のI/O

In:
島根大学医学部の先生4人
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