行列の功罪



炎天下で待つこと20分


沖縄県国頭郡本部町渡久地5に、その食堂はある。「きしもと食堂」という。

創業以来変わらぬ味を守り続けている沖縄そばの老舗。灰汁を使った昔ながらの製法で作ったコシのある麺とだしの効いた汁がピッタリとマッチしている(→ http://gourmet.yahoo.co.jp/0006610943/


沖縄美ら海水族館へ取材に向かう途中で、連れて行ってもらった。何の変哲もない市場の横の道に、なぜか行列ができている。そう、ここは沖縄でも珍しい行列のできる店なのだ。といっても、今日きている客のほとんどすべては観光客なのだろう。沖縄ことばで話している人はいない。


市場のまわりに止まっているクルマをみても、すべて「わ」ナンバー、すなわちレンタカーである。とはいえ、もともとは沖縄の人たちが行列に並んで食べていた店であることに間違いはない。これがすごいのだ。店の中にあった説明によれば、沖縄の人たちは行列に並んでまで、ということをまずやらないらしいから。


その理由は、昨日自分が行列してみてわかった。これが夜ならともかく、昼間の行列は危険である。いや、まじで。下手すると熱射病になる恐れがある。それぐらい陽射しは厳しい。そして、照りつける太陽の下での行列はおそらく「きしもと食堂」にとっては、相当に不利な条件を創り出しているはずだ。


なぜなら待っている人はみんな「こんだけ、暑い中、ずっと立って、待っとってんぞ。しょうもないもん食わせたら、承知せんけんね!」と思うはずだ(違うかな)。待っている間に期待値は、相当に上がってしまうのだ。これはあらゆるサービス業にとって、めちゃ不利である。だって最初っから思いっきり高いハードルを設定されてしまうわけですからね。


これが行列の功罪である。


行列といえば有名なのが、ホブソンズだろう。もう20年以上前、西麻布は霞町に初めてホブソンズが出店した。キャッチコピーを正確に覚えているわけではないが、とにかく「今まで日本では誰も食べたことのないアイスクリーム」かなんかだったはずだ。ここがサクラ行列で大成功した。


霞町の交差点南東角(じゃなかったですか)にある店は、交差点を通るすべての人、クルマから見える。そこに行列ができている。しかも、時期はおそらく冬だったと記憶する。冬に行列してまでアイスクリーム食いたいか、というのが常識的な反応で、ということは非常識な事態が起こっているのだから、これはニュースになる。


しかも,確かにホブソンズのアイスクリームは、従来のアイスとは一線を画していた。だから、行列に魅かれて並んだ人も「おっ、これはなかなかではないか」と感じずにはいられない。そうやって並んでまで食べてみて美味しかったアイスのことは、やはり誰かに伝えてくなる。


これぞサクラ行列&クチコミ作戦の真髄である。


ただし、そのためにはやはり核となる商品もしくはサービスが、行列を並んでいる間に高まってしまう期待値を超えることが絶対条件になる。


その意味では「きしもと食堂」は、相当なハンディを抱えて勝負していることになる。そりゃ沖縄に来たら、とりあえず沖縄そば食おかとなるはずで、那覇から2時間弱かかるこの場所にたどり着くまでに、一度は沖縄そばを食べている確率が高いからだ。


さらに、こちとら沖縄は三度目でい。来るたんびに沖縄そばもちゃんと食ってらい。そのオレさまをこの炎天下、20分も待たせてええかげんなもんを食わせやがったら………。と意気込んで食べてみたら、やっぱりうまかった。


そもそもメニューは「大」と「小」しかない(あと炊き込みごはんがある)。その潔さが良いではないか。これほどまでに観光客が増えてしまうと、地元の人はなかなか食べに来ないだろうけれど、いや、地元の人こそ食べたい味なんだろうなと思った。ごちそうさまでした。


しっかし、せっかく沖縄まで来て、一泊していながら
滞在時間20時間って、なんともったいない!


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ホームページ、リニューアルしました。
ぜひ、一度見てやってください。
http://www.com-lab.org/
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昨日のI/O

In:
『女たちよ』伊丹十三
沖縄美ら海水族館内田館長さまインタビュー
Out:
大阪大学・石黒教授インタビュー原稿
島根大学医学部・中原教授インタビューメモ


昨日の稽古: