映画村のリアル感




わずか15分のショー


先日、太秦の映画村に行ってきた。ずっと前に京都に住んでいたころには見向きもしなかった観光スポットだ。行こうと思いさえすれば、いつでも行けたけれど、決して行く気になどならなかった。ひと言でいえば「どうせ、しょうもないに決まってる」と思い込んでいたから。


その映画村に訳あって出かけてきて、ちょっとたまげた。いや、正確にいうとちょっとどころの騒ぎじゃないな。見せ物自体にびっくらこいたわけではないのだが、最近はまっている『リアルが持つ情報量すごさ』体験が印象に残ったのだ。


真夏である。暑いのである。嵐電の駅から歩いてわずか5分とはいえ、すでにじっとりと気持ちの悪い汗をかいている。ほんまに大人一人2200円も出す値打ちあんにゃろかといぶかしみながら入ってみると、誰もいない。いや、観光客がということですよ。もちろんチケット販売窓口にも、入り口にも、案内所にもお姉さんがいる。


そこそこ大きな土産物屋さんには、昔のお姉さんたちが手ぐすね引いて待っている。中には商売なんてどうでもええやん、あっついねんし的悟りの境地に入っておられるような、ずいぶん昔のお姉さんもいらっしゃる。三世代入り交じっていながら、別嬪さんには著しく欠けるというバランスの女性たちは揃っているのだが、客がおらん。


まあ、そんなもんやろなと涼しい売り場から表に出てみると、暑いのなんのって。すぐに日陰のあるところに飛び込むことになる。そこが『寺子屋』だった。映画で使われる小道具について、侍姿のガイド兄ちゃんがいろいろと教えてくれるのだ。


モニターに映し出された人物が、ではなく、生きている兄ちゃんが、というのがミソである。もちろん、話の巧拙はさまざまな要素に影響されるゆえに、どんな兄ちゃんのバイトにあたるかによっておもしろさは変わるはずだ。とはいえ、それなりに話し方などを訓練された兄ちゃんのしゃべりは、なかなかにおもしろかった。


そこで思いついたのは、この人はたぶん俳優の卵なんだろうということ。もっと早く気づけよってものだけれど、おそらくは俳優志望の人たちによって、エキストラは演じられているはずだ。だから、それなりに伝わるのだ。


続いて訪れたのが『忍者ショー』である。一応、ストーリーらしきものはあるが、それはさておき。かなり感動した。生の人間の動きに。といっても特別にすごい動きを見せてくれたわけではない。スタントに毛がはえたぐらいというのが、当たらずといえども遠からずだろう。だが、生身の自分にはできないことを、同じ生身の人間が目の前でやっている。


本当に目の前である。そのリアル感は圧倒的だと思った。このところ何回か書いているけれど、まずテレビカメラで切り取られたフレームではない。自分の視界の届くところすべてから情報が入ってくる。部隊の大きさそのものは左右5メートルぐらいしかないのだろうが、テレビカメラならその一部しか映さないはずだ。


ところが生の目ん玉なら、右端から左端をカバーできる。二階から落ちてくる忍者まで視覚の片隅で捉えることができる。圧倒的な情報量である。そして音。全員がマイクを使っているので、ややうるさくはあるが、声以外の音を感じる。それは舞台の上を走る音であり、二階から飛び降りる音であり、さまざまな音である。


さすがに匂いは感じなかったが、空気の流れみたいなものは感じとることができた。比べても仕方がないことだが、仮にこのショーをビデオで撮影し、YouTubeで見たらどれだけしょぼいことだろう。ショー自体のシナリオが練り込まれているわけではないし、俳優さんたちの動きが特別すごいわけでもないのだから、しょぼくて当然ではある。


ところが、これを目の前で実際の人間が演じると、印象はビデオ&YouTubeとはまったく違ったものになる。というか、完全に別物と言い切っていい。これがライブの持つ力なのか。


ライブとは言うまでもなく「Live」である。生身の人間が、その人生の貴重な時間を使って演じてくれる姿を、目の当たりにする。そのことが伝わる情報量を飛躍的に多くしているのかもしれない。


と、ここまで書いてきて気づいた。逆にいえば、バーチャル情報に取り囲まれることによってもしかしたら人は、人の中で生きていく人として必要な情報を、逆に得られなくなってしまっているのではないのだろうか。だから、人付き合いのうまくない人が増えているのではないのだろうか。


あくまでも思いつきに過ぎないけれど、ライブとバーチャルの間にある情報量と、その質の問題は考える価値のあるテーマだと思う。



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昨日のI/O

In:
『中学生からの哲学「超」入門』竹田青嗣
Out:
沖縄美ら海水族館館長さまインタビューラフ原稿


昨日の稽古:

・基本稽古
拳立て、腹筋、スクワット